〜トキノアメ〜

ISM 作


<登場人物>
弥生 司…この物語の主人公で弥生家の養子、魔法使いである。
弥生 巌龍…司を施設から養子に迎えた男。
雪野 時雨…司のクラスに転校してきた少女、強力な魔力を持つため魔導組織ルシファーに狙われている。
宗堂 明…司の友人、常にハイテンション。第二の出会いを見つけたらしい。
飛燕…魔法使い、司に魔法について教える。今は時雨のボディーガード。
霧崎 葵…司の幼なじみで、明の新しいターゲット。飛燕と過去に因縁を持つ。
陽炎…規則を破った魔法使いを罰する組織キマイラの一員。
ガブリエル…魔導組織ルシファーの一員、かなり頭のきれる女性。
ミカエル…魔導組織ルシファーの一員、闇の魔法を使いこなす。
ルシフェル…魔導組織ルシファーのボス、それ以外のことは不明。

<第九話 破滅>

 1

 狭い路地裏で、俺とガブリエルは対峙した。

 ――勝てるのか?飛燕さんですらも勝てなかったこの魔法使いに…

 ガブリエルは不気味な笑みを浮かべている。
 それは、絶対に負けないという自信からくる笑いだろうか?
 それとももっと別のことの…

「烈風!」
 そんなことを考えている暇があったら、さっさと攻撃した方がいい。
 空気が渦を作り、ガブリエル目がけて飛んでいった。
「卑怯ね、いきなり攻撃だなんて」
 路地裏は狭いので左右に避けることが難しい、今の俺の実力ではガブリエルの魔法を相殺することなど恐らく不可能だから、反撃する暇を与えず一気に攻め込 むに限る。

 ガブリエルは右手だけで、烈風を受け止めた。
 魔力を集中させ、烈風を相殺していく。

 悪いが、烈風は俺の扱える魔法の中でも強力な部類に入る。
 そう簡単には相殺されるわけがなく、その間に必殺の魔法、竜巻を詠唱する。

 バァン…。

 だが、ガブリエルはいとも簡単に烈風を相殺し――。
「海嘯(かいしょう)!」
 強力な魔法で反撃してきた。

 ガブリエルの足下から勢いよく水が噴き出し、大きな波となって襲いかかってきた。

 ザザザザァァァ…

 俺は、波に呑み込まれた。
 水の重みが俺の体にのしかかる。

「あらあら…この程度でまいっちゃうの?」

 バシャッ!

 水が四方八方に飛び散り、消えた。

「気流…か、なるほど、ちょっとは魔力もあるのね」
「旋風!」
「水柱!」

 風の槍は水の柱によって阻まれたが、それを貫通した。
「えっ…!?」
 ガブリエルは一瞬驚いた表情を見せたが、冷静に旋風を相殺した。

「ふぅ…、危ない危ない。やっぱりあなたは強いわね、自 分自身では気付いていないようだけど、強力な魔法使いになる素質も十分あるんじゃない?」
…何が言いたいんだ?」
「そんな冷たい目をしなくても…あなたも強くなりたいで しょう?」
「…ああ」
「…! 司くんっ! そんな女の言うことなんかにいちい ち反応していないで!」
「あら、気付いたの? 飛燕。まあいいわ、司、強くなりたいならば今のままじゃ絶対に不可能よ? それに、さっきも言ったけれど、もうあなたは常人の世界 では暮らせない。常人の世界に戻ったらきっと後悔するわ」
「そうかもしれないな…
「司くんっ!」
「じゃあ、道は一つね。シャドゥ・ブラッドを飲んでルシファーに入りなさい。ルシフェル様ならばあなたによくしてくれることだろうし、私も嬉しいわ…ふふ」

「……俺はルシファーに入っただろうな」
「え?」
「常人達にあんな酷い目に遭わされて、そこから救ってくれた人から今みたいな言葉をかけられたら、きっと俺は素直に首を縦に振っていただろう」
「じゃあ…なにがいけないのよっ!」
「お前らのボスの考え方と、やってきた事だ。常人に復讐する? そのために人を誘拐する? それら全てが間違っているんだよ、お前らは」
「でも、強くなりたいんでしょ? なんのために?」
「身を守るため…
「それは誰からなの? 常人以外にあり得ないでしょ?」
「お前らからだよ、バカ。そして、理由はもう一つある――」
「…バカ?」
「雪野のような、お前らに狙われている人を守るためだ!」

「…ぷっ」
「…?」
「なんなの…? あなた時雨にイカれた? なにが守るで すって? なに熱血しているんだか…自分自身も守れない くせに、人なんか守れるわけないでしょう? バカはあなたじゃない!」
「…っ!」
「我流で修行したって、魔法使いは強くなんかなれないわ。いくら頑張ったって、限界がある。今まではなんとか瞑想でやってきたみたいだけれども、それもす ぐ限界が来るわ。そうしたら、どうするの? 強くなるには他の魔法使いに教えてもらうしかないわよ、教えてくれる人は誰がいる? 私よりも弱い飛燕?」
「だ…黙れっ!」
「私には視えるわ…あなたの二種類のこの先が…。一つは、絶望の底でもがき苦しみ、かすかな希望にしがみついて 生きているあなた。もう一つはルシファーの中で頭角を現し、栄光を手にするあなた…!」

「……」
「どっちの方が良いと思う? 言っておくけど私の未来視は…確 実よ」
「竜巻!!!」
 俺が魔法を唱えると、目の前に以前ズッコケ三人組に使ったものよりも遙かに大きい竜巻が出現した。

…なるほど、そっちの道をとるのね…残念」
「いけ!」
 俺が命令をすると、竜巻はまわりに落ちているゴミなど全てを巻き込み破壊しながらガブリエル目がけて進んでいく。
…それがあなたの最強の魔法ね。いいわ、自分の無力さ を改めてわからせてあげる。渦巻!」
 地面から、勢いよく水が噴き出し、それは渦を作って竜巻の前に立ちはだかった。

 ビシッ…!

 二つの渦がぶつかり合う。

 ビシッ…ビシシッ…!

 魔法の威力は互角に見える。
 いや…こっちが押しているように見えるが…

「甘いって」
…!」
 ガブリエルが腕を振り下ろすと、竜巻の周りにもう二つ、渦が現れた。
「なんだと!?」
「私の魔力を見くびらないこと、この程度の魔法ならば…三 発ぐらい連射するのは容易い」

 竜巻のエネルギーはみるみる失われていき、ついに消滅してしまった。
「そして…こっちの反撃よ!」
 三つの渦が、一つになる。
 それは、とてつもなく巨大な渦となり、俺目がけて一直線に向かってきた。
「く…」
 左右にも、後ろにも逃げることが出来ず、相殺も出来ない。
 そうこうしているうちに、俺は渦巻に巻き込まれた。
「わああああぁぁぁぁっ!!!」
 目が回る、体が千切れそうだ。
 息が出来ない、苦しい――。

「大丈夫…殺しはしないわ…! 徹底的に弱らせ、無理矢理シャドゥ・ブラッドを飲ませるだけ だから…! そしてあなたは私の人形となるの…! ふ…ふふふ…! ぐっ…!?」
 渦巻の力が収まった。
 力が弱まった渦巻の中から、俺は外に放り出された。
 そして、渦が消えていくと何が起こったのかがわかった。

「炎の…槍」
 飛燕さんの腕には巨大な赤く光る槍が握られていて、それはガブリエルの体を貫いていた。
「油断したようね…、いつまでも私が倒れたままだと…思う?」
「ひ…飛燕…っ!」
 ガブリエルの手が青く光り、炎の槍に触れたかと思うと炎の槍は消えていった。
「何っ?」

 素早い動きで、飛燕さんや俺から距離をとるガブリエル。

…今回は私の負け…ね。でもこの次はこうはいかないわ…
 ガブリエルは口や腹から血を流し、苦しそうに言った。
「この次なんて…ないわ! 炎の稲妻!」
 だがわずかに遅かった、ガブリエルの姿は一瞬で消え、炎の稲妻はむなしく後ろの壁にぶつかった。

…とにかく、今回は…よかったね…司くん」
「……」
「どうしたの? 司くん」
「こんなんじゃ…ダメだ…、俺は…弱い」
「司くん?」
「強くなりたい…! 強くならないとダメなんだ…!」
「……」
「なあ、飛燕さん! 俺に魔法を教えてくれよ! 頼むから! 強くなりたいんだ!」
「…司くんは強くなってどうするの?」
「強くなって…ルシファーの連中に好き勝手をさせられな いように…したい」
「それで?」
「それでって…
「その先に一体何があるの? ルシファーの魔法使いなんていくら倒してもたくさんいるわ。全員倒すまで強くなる気?」
「……」
「私は…司くんにもう戦ってなんか欲しくない…
 そう言うと、飛燕さんは後ろを向いた。

「今日はありがとう…でも、もう戦わないで…」
 飛燕さんはそう言い残し、消えていった。

 2

 家に帰るまでは地獄のような道のりだった。
 常人一人にでも気付かれないようにするため、なるべく人が通らない道を選び、常にまわりに気を配って歩いたために、かなり回り道をしたし精神的にも疲れ た。

 家に入ると、父上が珍しく俺を心配して待っていてくれた。
 俺は父上と話し合い、学校に行くときは車で送ってもらうことになった。
 少々恥ずかしいが、仕方のないことなのだ。

 夜、葵さんが電話をかけてきた。
 彼女もどうやら無事だったらしく、俺も無事だと言うととても喜んでいた。

 そしてその次の日――。

 学校に到着した俺は、教室に入った。
 すると、一斉にクラスの人の目が俺に向けられた。
 教室内は一気に静まりかえり、ひそひそ話をする人たちもいる。

 その緊迫した空気の中で、すやすやと寝ている明に話しかけた。
「おい明。おはよう」
「んあ…?」
 あくびをして起きあがる明。
「珍しいな、こんなに早く学校に来ているなんて」
「ほえ…? つ…かさ? ……司!」
 いきなり明が立ち上がった。
 あまりにも勢いがよかったので椅子が後ろに倒れた。

「司! お前どうしたんだよ! 今朝発行の雑誌で特集やっていたぞ!?」
「え?」
「ほれ、見てみろ! “弥生家長男魔女に連れ去られ行方不明!”だぞ!?
 なんでここにふつーにいるんだ!?」
「しらねぇよ、俺は行方不明になんてなっていないし…誰 だ…? こんなスキャンダル記事書いたの」
「しかし、弥生なんて名字珍しいし、説明のところに弥生巌龍の一人息子としっかり書いてある!」
「…マジ?」
「本気と書いてマジだ。しかも、昨日魔女による殺人事件があったとか何かで、結構住民は怯えているんだ」
「それで…このクラスの人は俺に対して怯えているのか?  魔女によって連れ去られた人間だから」
「多分な。それでこの話は本当なのか?」
 こういう場合、本当でも嘘と言った方がいいに決まっている。
「嘘に決まっているだろ」
…そうか、ならいいけどさ。最近魔女が出現したとかな んとかで、みんな怯えているんだ。ちょっと不審な行動をとっただけで怪しまれるから気をつけないとな」
「ああ…そうだな」

「おはようございます、司さん」
「おはよう雪野さん」
「あの…司さん本当ですか?」
「なにが?」
「“弥生家長男魔女に連れ去られ行方不明!”…って」
 また面倒くさい会話が必要になった。
「その話なんだけどさ、雪野さん…放課後空いてる?」
「え…はい、空いていますけど」
「じゃあさ、屋上に来てよ。秘密の話だ」
「秘密の話! 私憧れていたんです!」
「声が大きいよ!」
「あ…ごめんなさい」

 放課後、雪野が屋上にやってきた。
「ごめんなさい、遅くなっちゃいました」
「いや、いいけどさ、なにやっていたの?」
「はい、ジュース」
「え?」
「秘密の話ですから、飲み物でもあった方がいいかな?って」
「はぁ…どーもすまないね」
「それで? なんですか?話って」
「実はさ…昨日、俺、魔女狩りにあったんだ」
「え?」
「俺が魔法使いだとか言って…俺…捕まりそうになったんだ」
…知っています、魔法使いを捕まえた人は一千万円もら えるんですってね」
「…やっぱり?」
「はい…どうして魔法使いなんて事がばれちゃったんです か?」
「知らないよ…目立たないように振る舞ってきたつもりな のに…
「何も知らないように振る舞っていくことは出来ないのですか?」
「そりゃあ、出来ればそうしたいよ? 信じていない人も多いだろうし、でも、金に目がくらんだ人々は怖いからね…」
…実は、今日聞いちゃったんですけど…
「何を?」
「みんな…司さんが魔法使いだと本気で信じているんで す…。だから、何をされるかわからないからって…近づかないようにしているんです」
…そうだったんだ」
「三年生の先輩と廊下ですれ違った時なんて、一年の弥生司を捕まえて一千万円を山分けしよう…なんてこと言っていましたし…
「…ヤバいな」
「はい…大変なことになっています」
「雪野さんは平気なの?」
「え…はい…大丈夫です。でも司さんが…心配で…」
「ルシファーの連中も、執拗に俺を狙ってきたしな…
「……私…司さんの力になりたいです」
「え…? でも雪野さんを巻き込むわけには…
「いいえ、今まで司さんが私を助けてくれましたし…今度 は私が」
「俺が雪野さんを助けた? あまりそんなことをした気はしないけど…
「助けられているんですよ! お願いですから、協力させてください!」

 雪野がここまで必死になったことはあっただろうか?
 雪野は、真剣な瞳でこっちを見つめている。

「協力…って具体的に何を…?」
「え…あの…司さんの……」
「…?」
「司さんの…苦しみを…半分にしてあげたいです……」
「…なんで」
「?」
「俺は弱い…! 俺は雪野さんを守れた事なんて一度もな いんだ! 昨日、俺はルシファーの魔法使いと戦って負けた!飛燕さんがいなかったら、きっと俺は連れ去られていた! そんな男になんで協力するなんて言え るんだ? 自分が危険な目に遭うかも知れないんだぞ!? それなのに…」

 雪野は後ろを振り向いて、なにやらぶつぶつ言った後、こっちを向いて言った。
「理由を言わなければ…ダメですか? 私が協力するのが 嫌なんですか?」
「いや…別にそういうつもりで言ったんじゃなくて…
「じゃあどういうつもりなんですか! 私だって一人前の魔法使いなんです! 飛燕さんも、司さんも信じてくれないかも知れないけれど、私は強いんです!  ルシファーの魔法使い程度、簡単に倒せるんですよ…!」

 雪野は目に涙を浮かべている。

「私、転校を繰り返しているから…友達なんて一人も作れ ないんです。作ってもすぐに別れないといけないから…だ から今回も作りたくなかったのに…、司さんと会って…守ってもらって…毎日一緒に帰ってもらって…そんなふうにされちゃったらお礼もしないまま別れるなんて出来な いんです!」
「別れる…?」
「ごめんなさい…、私、また今度転校するんです…。この町は好きでしたが、家を知られちゃったら…もう長居は出来ないんです…。楽しみにしていた、修学旅行も…遊園地も行けません…ですから…せめて、最後に…手伝わせてください」

 心臓が跳ねた。
 目から涙がこぼれてきた。
 何故こんな気持ちになるのか…よくわからない。
 ただ、唐突に言われたことがショックでたまらなかった。
 それでも…やっぱり雪野を巻き込むことは出来ない、こ れは俺の問題だから。
 自分一人で解決しなければならない問題だから――。

…まだダメだって顔していますね…? 最後の理由も言わないとダメですか?」
「えっ…ちょっと…
 雪野は一度深呼吸をして言った。

…司さんが好きです。だから…傍にいて…悩みや苦しみを半分にしてあげたいです…

 ――頭が真っ白になる。

…俺…は」

 ――気持ちに整理がつかない、こんな話をするつもりはなかったのに。

…俺もだ」

 ――言ってしまった。

「えっ…?」
 雪野は驚いてこっちを見た。
「本当…ですか?」

「本当じゃなかったらどうするんだよ、ここまで言わせておいていきなり嘘でしたなんて言ったら俺は最低な人間になっちゃうよ。うん…もう一度言おうか?」
「…いいえ」

 時雨は瞳を輝かせる。
 水晶のような涙が一しずく、コンクリートの地面に落ちた。

「それじゃあ、改めてよろしく、雪野さん」
「あ…それ待って下さい。あの…雪野じゃなくて…できれば時雨と…呼んでいただけますか?」
「そう…? じゃあ…時雨さん」
「“さん”もいらないですよ。呼び捨てにしてください」
「…時雨?」
「はい、よろしくお願いしますね司さん!」

 3

 今日は学校も休みで、外に出歩くことも出来ないので部屋でのんびりと過ごしている。

 あの日から毎日押し掛けていた、俺を捕まえようとしている常人達も、珍しく今日は屋敷の前にいなかった。

 今日は何もかも忘れてこうしてのんびりと過ごしていたい。
 そんな俺の願いは神さまには聞き入れられなかった。

「よ!」
 ガラガラと窓を開けて入ってきたのは、他でもない宗堂明だった。
「お前…どうやってこの屋敷に侵入したんだ?」
「もちろん屋敷の塀を登ったのさ!」
…監視カメラに写っているだろ?」
「ははは残念! 死角に入っていたから写っているわけもないぜ!」
「…で? どうやって二階の俺の部屋まで登ってきた?」
「この縄ばしごを引っかけて…」
「ああ、もういい、わかった。んで? どうやって窓の鍵を開けた?」
「この針金を…
「お前、泥棒になれるぞ。つーか呼び鈴押せ、その方が早いだろ」
「俺にとってはこっちの方が早いからな!」

 はぁ、とため息をついた。

…で? 今日はなんのようだ?」
「理由なんてほとんどないが、最近お前が大変な目にあっているらしいからな。友人として励ましにきたんだ」
…知っているのか?」
「当然だ、魔法使いを捕まえたら一千万円の賞金が出るという、そんなチラシが市から堂々と配られていることによって、お前が魔法使いだとか言って金目的で お前を監視している奴はたくさんいるし、学校でもお前を罠にはめて捕まえようとしている連中が山ほどいるぜ」
…そうか」
「…なあ、葵ちゃんから聞いたんだが。魔女がいるってい うのは本当らしいな」
「葵さんは何を言っていた?」
「自分が魔女狩りだとか何とかで捕まっていたら、司が助けに来たが、逆に捕まってしまいそんなときに魔女が、捕まえた男を殺して司を連れさらっていってし まったとか言っていたぜ。本当か?」
「…本当だ」
「へぇ…よく魔女に捕まって生きていたなあ!」
「…別の魔女に助けられたからね」
「別の魔女?」
「ああ…、いい人だ」
「そうか…魔女っていってもいい奴も悪い奴もいるんだ な」
「……」
「魔女とかいっても、結局は人間には変わりないんだろ? だったら、魔女狩りというのは間違っていると思うんだ。悪い魔法使いがいたからといってもたまた ま、悪い奴が見つかっただけかも知れないし、いい奴はいっぱいいると思うんだ」
「明はそう思うのか?」
「当然だ」

 よかった、こういう考え方をしてくれる常人がいると俺はとても嬉しい。

「サンキュー、明。俺元気出たよ」
…? そうか? ならよかったが」

 そう、こういう考えをしてくれる常人は一人だけではないはずだ。
 でも、今は少数派に過ぎない。
 それでも、魔法使いだって同じ人間なんだと認めてくれる人が増えてきてくれることを願おう。
 魔法使いだって悪い奴らばかりじゃないんだ。

「そうだ、テレビでも見ようぜ。この時間は人気ドラマの再放送やっているだろ? 俺、見逃した回があってさ、見たいんだ」
「いいよ、そこにリモコンあるから勝手につけてくれよ」
「うい」

 明がテレビをつけると、中継で駅前のバス通りが映し出されていた。
 車は通っていなく、人々で埋め尽くされていると言った状況だ。
…これ学校の近くの駅だよ…な?」
「ああ…

 画面が変わり、赤いマントを着た集団が映し出された。
 先頭には紫の髪を持った、赤い瞳の男がいる。
「ミカエル!?」
「なんだなんだ? 司! 知っているのか?」

「先日の魔女狩り…我々のボスはそれを我々魔導組織ルシ ファーに対する挑発と受け取った。よって、今! ルシファーは常人どもに宣戦布告する!!!」
 テレビの中で狂気を秘めた赤い瞳は叫んだ。

 魔法使いたちが、前へ進んでいき、次々と色々な魔法を放って常人を攻撃していく。
 店のガラスなどが飛び散り、人々は倒れていき、駅前は地獄と化していた。
「映画の宣伝か!?」
 確かにそれは映画の宣伝のようだった、だが右上にははっきりとLIVEの文字が表示されている。

 再び画面が変わり、スタジオが映し出された。
 そして、その後すぐに長いCMへと入った。

…あの様子だと、人もたくさん死んでいるのだろうな…
「この町はどうなるんだ!? 畜生! せっかく魔法使いにもいいやつがいると信じていたのに!」
「明…

 しばらくして、すぐに屋敷の外がうるさくなった。
「弥生司を出せ! 貴様があの連中を呼んだのか!」

 父上は、今外出中だ。
 使用人が帰るように説得しているが効果など無さそうだ。

 ガシャァァァン。

 部屋に石が投げ込まれた。
 裏手にもかなり大勢の人が押し寄せている。

「司! 絶対出ていくなよ!」
「当たり前だ! しかし…このままじゃ…

 扉が開き、大勢の人が屋敷の中に入ってくる音がした。

…っ! やつら屋敷の中に…!」
「司! 逃げろ!」

 俺達は部屋を飛び出し、屋敷の奥へと走った。
「行き止まりかよ! なんか隠れ部屋とかないのか? 司!」
…この屋敷無駄に広いし…
「お前の家だろ! どーすんだ!」

 そうこうしているうちに連中は階段を上ってきた。
 どうやら一つ一つ部屋を開けているらしい。

「仕方ない…」
俺はすぐ近くにあった部屋に飛び込んだ。
「鍵はないのか? 司!」
…父上は鍵かけるの好きじゃないから…
 挙げ句の果てに引き戸だから重いものを扉の前に置いて侵入を防ぐことも出来ない。

「よし! 司! 飛び降りるぞ!」
「マジ? ここ二階だぞ!?」
「そんなの平気だって! 下は草むらだ! 落ちても少しの怪我ですむ!」
「えええぇぇぇっ!?」

「どこだぁぁぁっ! 司ぁぁぁっ!」
 男が近づいてくる音がする。

「えーい! いくぞ! 司!」
「タンマ…!」
 俺の願いもむなしく、明は強引に俺を窓から外に押し出した。
 大分落ちたが、草がクッションになって少し切り傷をつくった程度で済んだ。
「おい! 早くどけ! 飛び降りられないだろ!」
「わり…
 明はまるで忍者のように軽々と飛び降り、きれいに着地した。

…さあ、これからどうやって逃げようか?」
 屋敷の周りには多くの人々がいて、逃げることが出来ない。

「いたぞ! 司だ!」
 俺達がさっきいた部屋から男が叫んだ。

「しまったぁ…見つかったか」
「来い、司!」
 明は裏庭へ走っていった。
「お…おう!」
 俺も走って追いかける。

「来るな、司!」
 足を止める。
 来いと言ったり来るなと言ったり難儀な男だ。
 …って来るなって事は何かあったに違いないじゃない か!

 見ると、明の目の前に、五、六人ぐらいの男達がいた。
「俺がここでこいつらを引きつけておくから逃げろ!」
 明が背を向けたまま叫んだ。

 ――畜生!

 俺は走った。

 後ろで殴り合いの音がする。
(明…!)

「もう逃げられないぞ!」
 目の前に別の男達が立ちふさがった。
「く…!」
 仕方ない、緊急事態なんだ。
 俺は魔法を詠唱する。
 ――魔法使いは常人に危害を加えてはならない――いかなる場合も。

 ふと、脳裏にその規則が浮かび上がった。

「畜生…! じゃあどうすれば…!」

 ガン! バキ! ゴンッ!

 男達が次々と倒れていく。
「大丈夫? 司くん!」

 なんと、葵さんが竹刀を構えて助けに来てくれた。
「小娘が…! 何故邪魔をするんだ! こいつは魔法使い なんだぞ!? 悪なんだぞ!?」
 残った一人の男が言った。
「私の友達だから…だから助ける」
「くそぅ…、お前、少し剣道の腕が立つようだが、俺は剣 道初段だぜ?」
 そう言うと、男は近くにあった木の枝をボキリと折った。
「俺に勝てるわけがないだろうがぁ!」
…いざ!」

 男が、一歩踏み込み素早い動きで葵さんの手を狙った。
 だが、それを葵さんは弾く。
 今度は葵さんが素早く踏み込んで頭を狙った。

 カンッ…

 木と竹の乾いた音が響く。
 お互いに一歩も退かない、激しい戦いだ。

…なるほど、お前もなかなかやるみたいだな…だがこれは実戦だ! だからこういうのもありだよな?」
 男が、葵さんのすねを狙って攻撃をした。

 しかし、葵さんは跳んで攻撃をかわし、そのまま…
「霧崎流秘技玄武!」

 ガツッ…!

 竹刀は男の頭にクリーンヒットした。

「悪いけど、私は剣道二段だから! …それから安心し て、みね打ちよ」
 男はどさりと倒れた。
 竹刀にみね打ちもみね打ちじゃないもあるのかどうか気になるが、まあそれはおいておこう。
…強いね」
「大丈夫? さあ、早く逃げて!」
「でも…まだ明が…

「よぉーっす。おっ、葵ちゃんも来てくれたんだ」
 明がピンピンとした顔で後ろからやってきた。
 殴られた痕跡はない、顔に血が少し付いているが、明らかに明の血ではない。ちなみにシャレでもない。
「……」
「おい、ボーっとしてんなよ」
「いや…、ちょっと考え事…」
「まだまだたくさん人がいる、いくら俺でも十人以上はいっぺんには相手できないからな!」
 俺達は裏口から走って逃げた。

 途中、何人の人が襲いかかってきたが、葵さんの剣と明の拳で全員倒していった。
 RPGだと最高のバランスなんじゃないの? このパーティー。

 4

 河原まで来た。

 ここまで来ると、さすがに追っ手も来ない。
 俺達三人は河原の芝生に腰を下ろした。

「疲れたぁ…
「大変だったな、司」
「ホント。でも司くんの家が大変なことになっていたときはびっくりしちゃった。すぐに竹刀持って駆けつけたんだから」
「ははは…、普段だったら危ない人だね」

 しばらくして、葵さんが呟いた。

「ねぇ、司くん…前から聞きたいことがあったんだけど」
「ん?」
「あのさ…司くんって本当に魔法使いなの?」
「お、俺もそれ聞きたかった」
「……」

 俺は、しばらく考えた。

「ここまできたら、いずれバレるだろうしね…。確かに俺 は魔法使いだ」
「……!」
 葵さんも明も驚いている。

「それで…あるひょんな事から、俺は悪い魔法使いの集団 ルシファーに狙われている。ある日の戦いで、俺が戦っている姿を常人に目撃されちゃったから…こうして追われているんだ」
「…そうなの…知らなかった…長いつきあいなのにね」
「司、それでお前はこれからどーするんだ?」
「…どうしようか。屋敷にも帰れないし、外はもっと危険 だし…」
「よし、俺の家にしばらく居候しろ」
「ほぇ?」
「俺がかくまってやるよ、友人としてな!」
「明…本当にいいのか? 俺は魔法使いだぞ? 気味が悪 いとか…思わないのか?」
「あのなぁ…、魔法使いは悪いとかなんとか人の間ではそ ういう意識が定着しちゃってその結果魔女狩りとか、馬鹿げたことやっているけどよ? 魔法使いだろうが普通の人間だろうが、司は司だろ?」

 心を打たれた。
 やはり、こういう常人も世界にいる。
 こういう人が増えていけば、魔法使いと常人が戦うようなこともないはずなのに――。

…!?」
 突然、後ろが明るくなって炎の球が飛んできた。
 間一髪で避け、体制を整えて坂の上を見る。

 そこには赤いマントを着た男が立っていた。

…ルシファー!」
「なんだよ! てめえ! 危ないじゃないか!」
「そうよ!」
 明と葵さんが戦闘態勢に入る。

「待って! 相手は魔法使いだ!」
「え…っ?」
「ほう、小僧よくわかったな。さてはお前も魔法使いか?」
「…その特徴的な赤いマント…誰がどう見てもルシファーの一員ってわかるだろ?」
「お前…司か!?」
「…だとしたら?」
「ガブリエル様から捕らえてくるように言われた! そこの二人には消えてもらい、お前を捕まえてみせるっ!」

…二人とも逃げて!」
「お…おう!」
 葵さんの手を引いて、明は逃げ出した。

 だが、明と葵さんの前に別のルシファーが立ちふさがった。
「まずい!」
「おい、司! 前を見ろ前を!」
「…!」
「火炎!」
 炎の球が俺目がけて襲いかかってくる。
…なんだ、この程度か…旋風!」
 風の槍が、火炎を散らし、さらにルシファーに命中した。
「ぐ…!」
 そのまま倒れて気絶してしまったルシファー。
 どうやら雑魚だったようだ。

 さらに今にも葵さんや明に魔法を放とうとしているルシファーにも魔法を放った。
「疾風!」
 凄まじい勢いで風の刃が飛んでいき、命中したルシファーは吹っ飛ばされて川に転落した。
 俺は、葵さん達の元へ走り寄っていった。

「すごい! 司くん強いじゃない!」
「…相手が弱いんだ」

 すると、次から次へとルシファー達が坂を下りて俺達の元へ集まってきた。

…ちょっと数多いね…」
「おい! 司! 大丈夫なのかよ!」
「うーん…多分」

 前から七、八人のルシファーがダッシュで向かってくる。
「突風!」
 それ一発で、彼らは全員倒れてしまった。
…よわっ」

 チュンチュンチュン…

 坂の上から、大勢のルシファーが俺達を狙って魔法を放っている。
 威力は低いが、魔法使いでない葵さんや明に当たったら大変だ。

「司ぁぁっ! 早く助けてくれぇぇぇっ!」
「わかったから! うるさいなぁ! 空波(くうは)!」
 風の波が、一撃で全員を吹っ飛ばした。

…初めての魔法だけど、なかなか上手くいったな」

 ビシュッ…!

 肩に激しい痛みが走った。
…?」
 さっき吹っ飛ばして川に落っこちていたルシファーが、魔法を放ち俺の右肩を射抜いたのだ。
 服が、血で赤く染まっていく。
「ち…油断したか…
「疾風はそんなに強力な魔法ではないようだな! 俺の岩の槍の方が強いぜ!」
「つ…
 肩に刺さっている、鋭利な形をした石を引き抜く。
 すると、そこからさらに血が出てきた。
…結構深いな」
「司! 早くあいつを倒せよ!」
「司くん! 大丈夫!?」
「……」

 激しい痛みを発する右肩を動かし、川の中にいるルシファー目がけて旋風を放った。
 ルシファーは体を旋風に貫かれ、水の中に倒れ、消えた。
 その部分の水が真っ赤に染まったが、またすぐにいつもの透明なきれいな川に戻った。

「あいてて…」
「司くん大丈夫? 血…結構出てるよ!?」
…手当てしないとまずいかも…
「早く俺の家へ来い! ここからなら走って十分でつく…」
 明が固まった。
…?」
「無様だな、お前の力はこんなものじゃないだろう? 司」
…誰だ?」
 顔を上に上げると、そこにいたのは…

「…陽炎」
「まったく…魔法使いたるものあの程度で油断するな!」
「…ごめん」
「司ぁぁ…この人はいい人なのか?」
「俺は陽炎、いい人か悪い人かはその人その人によって違うな」
「えっ…! じゃあ俺にとっては!?」
「お前は、司に危害を与える気はあるか?」
「Nothing!」
「じゃあいい人だ」

「あの…陽炎さん?」
「なんだ、娘?」
「早く手当てをしないと…」
「わかっている、ひとまず俺のアジトへ来い。この間見つけたいい場所だ」

 俺は陽炎に背負われて河原を進んだ。
 数分歩いた後、目に入ってきたのは見覚えのある建物だった。
…ウリエルのアジトじゃん!」
「何!? そうなのか? 誰もいなかったから勝手に使わせてもらっているが…」
「いいんじゃない? どうせウリエルは死んだし、手下の三人組も俺が消しちゃったし…
「司…?」
「陽炎、助けてくれ……」
 俺の手は、無様にも震えていた。
 
 5

 その日は、陽炎のアジト(本当はウリエルのアジトだが)で一晩を過ごした。

 葵さんと明は家に帰ったが、その前に俺に、
「何かあったらいつでも力になる」
 という言葉を残していってくれた。

 朝、目を覚ますと肩の痛みはすっかりひいていた。
 俺は起きあがり、階段を上って上に出た。
「よぉ、目が覚めたか?」
 陽炎が、椅子に座ってくつろいでいる。
 へこんだテーブルの上には、俺の分と思われる朝食が用意されていた。
「さあ食え…といっても急ぐ必要はないからゆっくり食べ ろ」
 朝食はトーストに目玉焼き、シリアル、サラダ、ベーコン、そしてオレンジジュース…
「うまいか?」
「うまいよ、このベーコンなんてよく火が通っていて…
「ああ、それな。火炎魔法で焼いてみたんだ」
…やっぱり」
「やっぱ魔法使いは楽だな、俺は炎属性と雷属性以外はほとんど使えないから水属性魔法を使える奴が羨ましいぜ」
「何故?」
「いつでもうまい水が飲めるだろ?」
「……」
「お前は風属性以外の魔法は使えないようだからな、風属性魔法なんて生活には使えないだろ?」
「使ったことない」
「だろ? 風属性魔法なんて夏の暑い日にしか使えないよな。… いや、庭の芝刈りに使えるか…?」

 何故陽炎はこんなにのんきなのだろう。

「なあ、陽炎」
「どうした? いい使い方でも思いついたか?」
「そうじゃない。昨日の…ルシファーが町を襲ったって事 件どうなった?」
…あれは止めようがなかった。ルシファーの中のNo1 とNo2が同時に出てきて、挙げ句部下はその精鋭部隊だ。
ルシフェルめ…常人に復讐するというのは本気だったよう だ…
…で、今は?」
「町はボロボロ。駅なんて瓦礫の山だ。あの様子だと、人も大勢死んだだろうな…。政府は武力で抑えようとしているみたいだけど…あの調子じゃなかなか抑えられない。しかも、これと同時に各地で 魔法使い達が常人を襲うという事件が起きた。キマイラのメンバーも何人か出動して、今魔法使い同士が激しい戦いを繰り広げている…」
…陽炎は、何故この町に?」
「俺? 俺の本来の目的は、ルシファー達を捕らえることだ。常人を殺したルシファーはその場でout。そういった奴らにも天罰を与えているのさ。そして最 終目標は…ってこれは言えないな」
「何?」
「気にするな」
「気になるよ」
「キマイラの機密事項だ、頼むから詮索しないでくれ」

 すると、不意に陽炎は立ち上がった。
…仕事だ。また初めやがったなあいつら…
「陽炎?」
「司、行って来る。お前はここで待っていろ、絶対に外に出るな」
 そう言い残し、陽炎は外へ飛び出していった。

 出ていく気力なんかないよ…

 一人になった俺は、残りのオレンジジュースを飲み干して考えた。

 そういえば時雨は平気だろうか。
 時雨の家は駅から近いし、ルシファーから狙われているからひょっとして…

 ――弥生さん…時雨をよろしくね。

 …!?

 ――ボディーガードしてくれているんでしょう?

 これは…、時雨のお母さんの言葉だ。

 ボディーガードしている?
 こういうときこそボディーガードをする必要があるのではないのか?

 いてもたってもいられなくなった。
 俺は陽炎の忠告を無視して、時雨の家へ走った。

 無事でいてくれよ…

 とにかく走った。
 不安の波が押し寄せてくる。

 時雨の家の前に着いた、途中誰にも見つからなかったのは奇跡といえよう。

 呼び鈴を押す。
 …だが、いくら待っても返事がない。

 もう一度押してみる。
 …どこかに逃げたのか?

 ならば大丈夫だ、安心して俺も…
 …と思ったときに、玄関の扉に一部燃やされた跡がある のに気がついた。

 俺は門を開けて、扉の前に立った。
 扉は、魔法で燃やされており、ちょうどその穴から手を通して鍵を開けることが出来る。

「あちっ!」
 まだ熱かった。
 穴から中を覗くと、複数の人間が土足で上がった形跡がある。

 嫌な予感がした。

 俺は扉を開け、家の中へ入るとそこには、縄で縛られた時雨のお母さんがいた。
 居間では戦闘の形跡があり、何本かの太い尖った氷の柱には血が滴っていた。

「大丈夫ですか!? 何があったんです!?」
 縄をほどき、口を封じていたガムテープをはがした。
「はぁ…はぁ…弥生さん…? いいところに来てくれたわ…
「お母さん?」
「あら…お母さんだなんて…嬉しいわぁ」
…そーゆー場合じゃないです! 一体今何が…?」
「本当にたった今…赤いマントを着た悪い魔法使いの連中 が…
「ルシファー!?」
「そう、よく知っているわね」
…俺も魔法使いですから」
「そう…なら平気よね? ルシファーが、ここにいきなり やってきて…時雨をさらおうと…」
「時雨が? 今時雨はどこに!?」
「…ルシファーの一人が…連れて行っちゃったわ…」
「…!? なんだって!?」
「…あの子は、強力な魔法の力を受け継いでいるから…。ルシファーが狙い続けているの…」
「知っています、たしか魔法使いの純系だとか」
「ええ、だからきっとあの男は、強力な魔力を持つあの子が欲しいのよ。常人に復讐するために…
「あの男?」
…私の兄、ルシフェル」
「…!!!」

「そういうことだ、司」
「なっ!?」
 振り返ると、そこにはあの男が立っていた。
 紫の髪…そして…赤い瞳…。

 つづく

<あとがき>
 いよいよ、最終回も迫ってきました。
 時雨の告白シーン、さんざん悩ませていただきました。
 そのうちだんだんクサくなっていっちゃって…最初は歯 止めが利かないぐらいすごいことになっていたのです。結局、次の話にギャグを入れて…となんとかバランスをとらせてみましたがいかがだったでしょう?
 今回は補足があります。
 まず、司と明が窓から飛び降りて逃げ出すシーンがありますが、靴はどこから持ってきたのか?
 …ということ。
 和風の家だから、靴を履いて中に上がることはありえないし…
 あれは、逃げ出す際に司が自分の部屋から体育の授業で使う運動靴を持っていったのです。
 ただ、どうしてもそれを文中に挿入できないのでこういう形で説明することになってしまいました。
 ごめんなさい。
 このぐらい話も大きくなると、おかしな事の連続です。
 普通はありえねーっ! って事も、見過ごしてください。

<おまけ 宗堂 明の剣道大会>

あらすじ:萌える男、宗堂 明は見事、第二のターゲット、霧崎 葵を見つけた!

 俺は葵ちゃんの高校の門で葵ちゃんを待ち、そして一緒に帰っている途中だった。
「ねぇ葵ちゃん、今度の土曜暇?」
「ごめんね、今度私剣道の試合あるんだ」
「へぇ…じゃあ応援に行くよ!」
「本気!?」

 ――七月第三週の土曜日、葡萄館。

 なんか字が違う気もするがそこは気にしないでおこう。

「おーい!」
 後ろには、袴姿の葵ちゃんがいた。
 まて…それは反則…。(なにが)
「応援に来てくれてありがとうね、私頑張るから!」
 ……と葵ちゃんは笑顔で言った。
 それも反則ぅ…。(なにが)

 いよいよ、葵ちゃんの番だ。
 剣道の試合はよくわからないが、とにかく相手を倒せばいいんだろ!?(違います)

 防具をつけた葵ちゃんと、その対戦相手が位置につく。

 ああ、防具なんかつけちゃったら顔が見えないじゃねぇかよぉ…。 (防具をつけないと危険です)
 二人が礼をする、なんとまあ礼儀正しい人だ、いい娘だなぁ…。 (当たり前のことです)

 ついに試合が始まった。
 ここからは俺が実況したいと思います。

 両者、間合いを取っています!
 おっと! ここで葵ちゃんボディーブロー!(謎)
 入るか!? おっ!対戦相手! ガード! なかなかやるな!
 対戦相手! 上段攻撃! 頭部を狙ってきたか! 卑怯なやつめ!(普通です)
 だがそこは葵ちゃん! 上手いテクニックで受け止める! さすがだ! そして葵ちゃんの攻撃が見事相手の胴にヒット! ここからブレーンバスターに繋 がっていくか!?

「いかねぇよ」
「はっ!? 誰だ!?」
 ふと、横を見るとそこにいたのは司だった。
「お前、聞いているとさっきから訳わかんねぇことばっかり言いやがって…
「だってルール知らないんだもん…って! なんでお前が ここにいるんだ!?」
「ん? 葵さんに招待されたから。んで、なんか横を見るとうるさい奴がいるから見てみたら明、お前だったっていうわけ」
「ほほぅ…そうかそうか、お前も葵ちゃん目当てか」
「…はぁ?」

 試合終了後、俺と司で話し込んでいたら葵ちゃんがやってきた。
「遅くなってごめんね」
「いやいや! 別に問題ないです!」
「あれ? 明くん、いたの?」
「いたの? って…さっき挨拶したじゃないの!」
「なんのこと? 私は司くんに挨拶したんだけど…気がつ かなかった」

ガーンガーンガーンガーンガーンガー ン……。

 心の中で大洪水。
 頭の中で大花火大会。

 めでたしめでたし

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