〜トキノアメ〜
ISM 作
<登場人物>
弥生 司…この物語の主人公で弥生家の養子、魔法使いである。
弥生 巌龍…司を施設から養子に迎えた男。
雪野 時雨…司のクラスに転校してきた少女、強力な魔力を持つため魔導組織ルシファーに狙われている。
宗堂 明…司の友人、常にハイテンション。第二の出会いを見つけたらしい。
飛燕…魔法使い、司に魔法について教える。今は時雨のボディーガード。
霧崎 葵…司の幼なじみで、明の新しいターゲット。飛燕と過去に因縁を持つ。
陽炎…規則を破った魔法使いを罰する組織キマイラの一員。
ガブリエル…魔導組織ルシファーの一員、かなり頭のきれる女性。
ミカエル…魔導組織ルシファーの一員、闇の魔法を使いこなす。
ルシフェル…魔導組織ルシファーのボス、それ以外のことは不明。
<第十話 決戦の時>
1
「ミカエル……!」
「よく覚えていてくれた、光栄だ」
この状況はシャレにならないぐらいヤバい。
ルシファー内最強の男が目の前に立っている、今の俺では太刀打ちできる相手ではない。
「時雨さえいれば、もう十分だ。ガブリエルは、貴様が必要だとか言っていたが、私にとってはどうだっていい」
「……」
「チョロチョロされていては邪魔なのでな……ここで消しておこうか」
「くっ……!」
「弥生さん! 逃げてください! その人はあなたが戦って勝てる相手ではありません!」
「逃げるのか? 逃げたらこの女がどうなるかわかるか?」
「ちっ……」
「弥生さん! 私に構わず逃げてください!」
「……もしお母さんに何かあったら……俺は時雨に何て言えばいいんだ!? とても逃げられません……」
「ほほぅ……」
ミカエルは一歩、こちらに近づいてきた。
「……では、どうするつもりだ?」
「こうするんだよっ!」
俺は烈風を放った。
凄まじい風が起こり、ミカエルを襲った。
「さあ! 今のうちに!」
「弥生さんは!?」
「時間を稼ぎます、その間にどこか遠くへ逃げてください!」
「……気をつけてね」
バアン……!
だが、烈風はあっけなく相殺された。
「この程度の魔法では私には通用しない……貴様は私には絶対に勝てないのだよ!」
「……っ!」
「そこの女を逃がすわけにもいかない、少しでも我々の作戦に影響を及ぼす恐れがある者は皆殺しだ」
どうしよう。
こんな家の中で竜巻を使うわけにもいかないし、烈風は効かない。
そうすると、決め手となる魔法がない。
「弥生さん、目を閉じて軽く深呼吸してみてください」
「え?」
「いいから言うとおりにして」
「……」
俺は時雨のお母さんに言われたとおりにした。
「そのまま……」
お母さんの手が肩に触れる。
ビシッ……ビシビシッ……!
「え……?」
体の中に何かが侵入してくる、それは血の中を駆けめぐり、全身に行き渡る。
「……もういいわよ」
体が震えている、足が動かない。
頭が痛い、そして猛烈に眠い。
「お母さん……何……を」
「いいから、いいから……」
「……何をしている? こっちから攻撃するぞ!?」
ミカエルが腕に魔力を溜める。
「攻撃が……くる……!」
「黒弾!」
「弥生さん、相殺してみて!」
「そんな事言ったって……」
「いいから!」
ミカエルの魔法は相殺など出来るはずがない。
だが、もう避けることも出来ないし、避けたとしたら時雨のお母さんに黒弾が命中する。
一か八か、黒弾を両手で受け止め魔力を両手に込めた。
ポン。
「何っ!?」
光が走ったかと思うと、黒弾は一瞬にして消滅した。
「女……! 何をした……!?」
「弥生さん! 今よ!」
「え…? あ、はい!旋風!」
風の渦が、ミカエル目がけて襲いかかっていく。
「くっ……!」
ミカエルは手で旋風を受け止め、相殺したが体が弾き飛ばされてしまった。
俺は連続で旋風を放った。
一発二発三発……四発目でやっと命中した。
家の扉を壊し、ミカエルの体は外にまで吹っ飛ばされた。
それを追って、俺も外に出た。
ミカエルは頭を打ったらしく、頭から血を流している。
「さあ、ミカエル。覚悟しろ」
「この……貴様ごときにっ!」
「旋風!」
それがとどめの一撃になるはずだった。
放たれた旋風をミカエルは見ると、不気味に笑い、立ち上がって相殺した。
「あれ……?」
「……読めたぞ、女が一体貴様に何をやったか……」
「!?」
「あの女は自分の力を貴様に分け与えていたのだ。そのため貴様の魔力は飛躍的に上がっていたのだ。だが、それにはかなりの魔力を要する……ほとんど魔力が
残っていないあの女では……この程度の時間が限度だったようだな……」
はっと、後ろを振り返った。
開かれた扉から、今の様子が見え、そこには時雨のお母さんが横たわっていた。
「貴様も知っていると思うが、魔法使いは体内の魔力が少なくなると疲労に襲われ動けなくなる……、しかもその状態が長く続くと死に至る……」
ウリエル戦で俺がやったことだ。
魔力を使い果たし、体中の力が抜けてしまったのを覚えている。
つまり、あの状態が長く続くと大変危険だったということだ。
「さてと……、続けるか」
ミカエルはゆらり、と手を前にかざした。
「黒弾」
黒い魔法の弾が連続で発射される。
「くっ……烈風!」
風の渦が黒弾を相殺していく。
しかし、一発の烈風では連続で放たれた黒弾全てを防ぎきることは出来ない。
「ならばもう一発!」
今度は左手から烈風が放たれる。
二つの渦は黒弾と激しく衝突しあい、相殺しあった。
「面白い……、少しはまともに戦えるようになったか」
ミカエルが新たに魔法を詠唱し出す。
「今度はどうかな?」
ミカエルの手から黒い触手のようなものが次々と伸びてきた。
「空波!」
だが、無数の触手は風の波によってどんどん消されていく。
「ほぅ……」
ミカエルは不敵に笑った。
それこそ戦いを楽しんでいるかのような笑みだ。
ビシッ……!
いや、違った。
奴の笑みは、敵を罠にはめることに成功した事による笑みだ。
地面から触手が次々と現れ、俺を縛り付けた。
触手はどろどろしていて実体がない。
だが、触れられただけで体の力がどんどん抜けていく。
「まだまだ貴様は甘いな、目に見えるものしか見ていない。そう……闇は相手の目に見えないように攻撃する……」
「く……気流!」
体の周りを風の鎧が取り囲み、触手を次々と“切断”した。
「……」
ミカエルはただ何もせずに立っている。
俺は今が好機とばかりに烈風を詠唱した。
しかし――。
体の力が一気に抜け、膝ががくんと曲がった。
俺は地面に座り込み立つことが出来なくなった。
猛烈な睡魔に襲われる、もう二度と目覚めることのないような永遠の闇へ堕ちていく……。
ミカエルの高笑いが聞こえた。
「ははは! 司! さっきの触手で貴様の魔力はほとんど吸い取った! これで貴様はもう立ち上がることはおろか、再び目覚めることも出来ない!」
そうか――魔力が――なくなって――。
ああ――弥生 司は……死んだ……な。
俺は白い世界にいた。
これに似た世界を前にも見たような気がする。
そう、ずっとずっと昔、俺がまだ生まれてもいない頃、俺はこの世界にいた。
懐かしい――。
憎しみも、苦しみもない平和な世界。
ただ光の中に身を任せ、なにもせずとも生きていられる世界。
全てを忘れ、永い眠りにつく。
もう、戦いも、苦しみも何もないんだ。
一歩、道を進む。
――……さん!
耳障りな声がする。
また一歩。
――……かささん!
五月蝿いな……。
また一歩。
――司さん!
足を止めた。
誰かが俺を呼んでいる?
なんだかとても大切な声――。
戻ろう。
歩いてきた道を全速力で走った。
「あれ?」
目を覚ました。
そこはうす暗い部屋だった。
見たこともない場所で窓一つない。
人の気配は……。
「司さん!」
いた。
時雨が隣で目に涙を浮かべていた。
「時雨? どうしたんだ?」
「司さん……! よかったぁ……」
「……?」
「私……司さんがずっと眠ったままだったからどうしようかと……」
「ずっと? どういうこと? その前にここは?」
時雨は急に顔を暗くした。
そして、その口をゆっくりと開いた。
「ルシファーのアジト……です」
2
「ルシファーのアジト!?」
「きゃっ! あ……びっくりしました……」
「あ、ごめん。ということは……俺はミカエルとの戦いに負けてここに連れてこられたってワケか」
「体の魔力ほとんどを失っていたんです……もう目を覚まさないかと思っていました…」
「そう……、しかし不甲斐ないな。時雨を助けるつもりだったのに、こうして逆に連れてこられるだなんて……」
「え? 私が連れてこられたこと知っていたんですか?」
「ああ、時雨の家に行ったからな」
「……あの……お母さんは?」
「ん?」
「大丈夫でしたか……?」
その言葉に、家の中で倒れている時雨の母親の姿が脳裏に映った。
「……時雨」
「え……!?」
「いや……大丈夫だよ」
俺はウソをついた。
「時雨、これからどうする?」
「どうするって……?」
「ここから逃げだそう、特に時雨はここにいてはならない」
「でもどうするんですか?」
「えーっと……」
ガチャリ
扉が開く音がした。
見ると、扉のところに一人の男が立っている。
「ミカエル……」
「生きていたのか……よかった。殺してしまったかと思ったよ、貴様に死なれたらルシフェル様にどんなに叱られたか
わかったものじゃない……、まあそれもいいけどな……」
「……っ!」
手に魔力を込めた。
「おいおい……、ここで争いを起こさない方が無難だぞ。それよりも二人ともついてきてもらおう」
「断る」
「ならば面白いものを見せよう……、これを見たら嫌でも来る気になる……」
ミカエルが指を弾くと、もう一人の人間が扉の前にやってきた。
「葵さん!?」
そこにいたのは葵さんだった。
こちらの呼びかけも聞かず、虚ろな目をして立っている。
「ミカエル! 葵さんに何を……!」
「ガブリエルの案だが……。この女はなかなか使えそうなので、悪いが魂を抜き取らせてもらった」
「……!」
「これで貴様の選択肢は一つになったようだな?」
ミカエルに連れられて、俺と時雨は廊下を歩いた。
後ろから葵さんが、ゆっくりとついてくる。
エレベーターに少なくとも三回は乗せられて、とにかく上へ上へと向かっている。
最後にエレベーターがついた場所は、とても暗く、目の前には大きな扉が立っていた。
「いらっしゃい」
「ガブリエル……」
「やっと来てくれたのね……、さあルシフェル様がお待ちよ」
「ルシフェルが?」
手にぐっと力を溜めた。
「……やめておいた方が無難よ、何もしなければ痛い目には遭わないから」
「……」
「司さん……」
扉が開いた。
広く、長い部屋の奥には一人の男が座っている。
「入れ」
「……」
ミカエルに言われるがまま、俺と時雨は足を進めた。
時雨は後ろから俺の手を握り、ゆっくりとついてくる。
その手は、とても震えていた。
そしてついにルシフェルの前までやってきた。
黒いローブを身にまとい、顔を見ることは出来ない。
ルシフェルはゆっくりと立ち上がった。
「ようこそ、時雨、そして司」
重く、冷たい声だった。
「貴様達は私の最高の客だ……、多少無礼なこともあったようだがそこは大目に見よう……」
「……」
「さて――、まず司よ。私の望みは貴様が私の手下となって私の思うがままに動き、ミカエルやガブリエル、ラファエル、ウリエル達といった四天王を上回る実
力を手にしてもらうことだ」
「……」
「貴様にはそれだけの実力がある……わかるな?」
「……俺がお前の手下になるとでも思うか?」
「……」
ルシフェルは少し震えた。
「貴様は手下になる。私が作ったシャドゥ・ブラッドを飲めば、魔力は飛躍的に上がり、さらに私の思い通りに動く」
「悪いけど、俺はシャドゥ・ブラッドなんか飲まない」
「自分から飲まなくても良い、飲まないのならば飲ませる」
「そう言って無理矢理飲ませようとした奴はお前の仲間でいたけど……みんな失敗しているんだよな……」
ルシフェルはまた震えた。
「貴様、それがこの私に向かって言う言葉か?」
「……?」
「無礼にもほどがある! 私は貴様をそんな人間に育てた覚えなどない!」
その叫び声は、暗闇の中に吸い込まれていった。
時雨が今にも泣き出しそうな顔をしている。
そして――俺の頭にはその声がずっと頭の中で鳴り響き続け、あるものと結びつこうとしていた。
「父上……?」
ルシフェルは、フードを取った。
その顔は見慣れた、父上の顔だった。
3
「どうして――」
頭の中が混乱し始めた。
「貴様は私の思うがままに動く駒となればそれでよいのだ。余計なことは考えるな!」
「父上……」
「まあ、いずれ貴様に正体を明かそうとは思っていた。しかし少し早すぎたようだ……」
「……?」
「まあよい……、多少計画外のこともあったがまだ平気だ。司、私の手下となれ」
「……」
「返事はどうした……?」
「断ります」
「ほぅ……」
父上――いやルシフェルが一歩前に出た。
「親の命令が聞けないのか?」
「……」
「実の親に捨てられて、施設にいた貴様を引き取ってその年齢まで育ててやったのは誰だ!? その恩返しをしようという気にはならないのか!?」
「……父上は、俺を手下にしたら……何をする気ですか?」
「知りたいか?」
「……はい」
ルシフェルは椅子に深く腰掛けた。
「復讐だ。
この世界中を支配し、我々魔法使い一族を常に邪魔者扱いし続けた、腐りきった常人達を皆殺しにし、そして魔法使いだけが住む理想郷を作り上げる。そのた
めには多くの常人を殺すことが出来る強い魔力を持った魔法使い、そして頭がよい魔法使いが必要だ」
「……」
「司、貴様はその二つの能力を兼ね備えている。私がそのように教育した」
「……」
「どうだ、理解したか?この素晴らしい計画には貴様が必要なのだ」
俺はため息をついた。
それにルシフェルは敏感に反応した。
「なんだ?」
「俺は父上を尊敬していました。俺をここまで育て上げてくれたのも、学校に行かせてくれたのも、全て父上のおかげです」
「では――」
「しかし失望しました。復讐なんて何も生み出しはしない……そんな単純なこともわからない人間だったとは思ってもいませんでした」
「……」
「俺はお前の手下になんかにはならない! もう……お前は父上なんかじゃない!」
「……!」
ルシフェルの顔が引きつっている。
体中が怒りに震えているのがわかった。
「……この不良品め!」
ルシフェルは立ち上がって、手を前につきだした。
途端、前から激しい風が吹き、俺は後方へと吹っ飛ばされた。
「司さん!」
地面にたたきつけられた。
時雨の声が小さいのは、かなり遠くまで飛ばされたのだろう。
タタタという足音が近づいてくる、時雨の足音だ。
俺は立ち上がった。
ガシャァァァァン!!!
下から杭が突き出た。
それは俺と時雨との間に突き出て、行く手を阻むかのようだった。
周りを見ると、次から次へと杭が突き出て、俺は完全に閉じこめられた。
「土の檻……か」
「司さん! 大丈夫ですか!?」
檻の外で時雨が心配そうにこちらを見ている。
「悪いけど、全然大丈夫じゃない。出られないよ……」
「私が何とかしてみます……ふぶ……」
薄暗い部屋できらりと時雨の首の横で何かが光った。
「きゃっ!?」
時雨の首には鋭利な魔法の刃が突きつけられている。
突きつけているのは赤い瞳を持つ男、ミカエルだった。
「安心しろ、時雨、そもそもお前に危害を加えるつもりはない。さあ、檻から離れろ」
時雨はゆっくりと後ろに下がった。
「ちち……ルシフェル! 時雨に何をする気だ!」
ルシフェルは俺を無視して話しだした。
「時雨、お前は私の姪に当たる……それはわかっているな?」
時雨は目に涙を浮かべて、コクリと頷いた。
「お前は二つに別れた血の片割れだ。崇高な計画のために協力してもらおう」
時雨は黙っている。
足ががたがたと震えている。
「ミカエル! 時雨を放せ!」
「……時雨、もうお前はあの女――お前の母親から能力を受け継いでいるのだろう?」
やはり時雨は動かない。
「ルシフェル! やめろ!」
「やかましい! 貴様などにもう用はない! 待て……そうだ」
ルシフェルは何か恐ろしいことでもひらめいたかのような顔をした。
「時雨、今から司は殺人鬼と化す」
「……!?」
「何を……」
「しっかりと見ておけ……お前にそれが耐えられるかな……?」
「ルシフェル!?」
シャッ……。
何かが空を切る音が後ろから聞こえた。
後ろを振り向くと、檻の中にはもう一人、人がいた。
「葵さん!」
葵さんは刀を握っている、竹刀なんかではない、真剣だ。
「ぁ……」
時雨が小さな声を上げた。
俺も、時雨も気がついた、これからルシフェルが何をやらせるのかが……。
ミカエルが楽しそうに、不気味な笑顔を浮かべている。
「いいのですか? ルシフェル様」
「ああ、ミカエル――……」
その言葉を言い終わる前に、ミカエルが指を弾いた。
葵さんが俺に向かって真っ向から向かってきた。
「ふふ……ミカエルよ、話は最後まで聞け……。まったく困った奴だ」
「くく……」
葵さんが刀を振るう。
俺は咄嗟に右へと転がって避けた。
刀と檻がぶつかり合って高い音がする。
「ちっ……!」
俺は魔法を放とうとした、しかし葵さんは常人であることを思いだした。
いかなる場合でも、常人に危害を加えてはならない。
それに万が一、急所に当たってしまったら、それこそルシフェルの言う通りである。
俺は体制を立て直した。
葵さんは刀を構え、こちらを睨みつけた。
いや――その目には生気がない。
ミカエルの操る人形と化してしまっているのだ。
ぶん!
ぶん!
葵さんは刀で攻撃してくる。
さすが剣道有段者といったところか、俺はどんどん端に追いつめられていく。
背中が、檻とぶつかった。
葵さんは俺の首を切ろうと刀を振るった。
俺はすかさずしゃがみ込んでそれを避けた。
葵さんが俺を見下す。
「……っ!」
鈍い音がして、葵さんの蹴りが俺の腹にヒットした。
そして、半歩下がると刀を俺の頭上に勢いよく下ろした。
「旋風!」
高い音がして、刀は葵さんの手を離れ地面に突き刺さった。
葵さんは、手から離れた刀をゆっくりと引き抜くと、再び構え直した。
「どうだ、時雨。楽しいだろう? ついに司は魔法を使った、今のは刀を狙っただけだったが、そのうち女にも攻撃を加えるぞ……」
ルシフェルの声がする。
「そんなはずないです! 司さんは……絶対にそんなことはしません!」
「ならばそう信じていろ、しかしあの女には今、疲れというものが存在しない。つまり司があの女を殺さない限り、司は死ぬ」
「……!」
キン!
俺は葵さんの攻撃を避け続けた。
前にミカエルによって操られた人々は、“気絶”をしなかった。
つまり、葵さんを気絶させることは出来ないし、もし気絶させられるとしても、葵さんにはほとんど隙がない。
そろそろ体力的にもやばくなってきた。
「顔を手で覆って、どうした時雨?」
「もう嫌です……! 司さんがこんなに苦しむのは……見たくありません!」
「現実から目をそらしても、現実はそこにある。そんなことをしても事態は変わらない……それよりも自分がどうするべきか考えろ」
ルシフェルは卑怯だ。
こんな手を使って、時雨を精神的に追いつめようとしている。
「時雨! 絶対にルシフェルの言う事なんて聞くな!」
俺は葵さんを見続けながら叫んだ。
「司さん……。……葵さん! もうやめてくださいっ!」
「無駄だ」
ミカエルの冷たい声がした。
「私の操り人形は、魂を戻さぬ限り私のしもべだ」
「あやつり……にんぎょう……」
また、端に追いつめられた。
さっきから何度このパターンを繰り返しているのだろう。
葵さんもそろそろ腕が限界であるはずなのに、なおも攻撃を続けてくる。
シュッ……!
痛みが走った。
見ると、腕から出血している。
さっきの攻撃がかすったのだ。
「そろそろ限界……か」
「時雨、お前が私の仲間となるのならば司も、あの女も助けてやる。どうだ? それがお前にとって一番いいのではないか?」
「ルシフェル……!」
その言葉を聞いて怒りがこみ上げてきた。
――汚い。
こんな男が俺の父親だったなんて――。
「ルシフェル、私は自分のやるべき事をやります」
時雨は決心したようにはっきりと言った。
「ほぅ……」
ルシフェルは嬉しそうに言った。
「……まさか! 時雨!?」
「安心してください、司さん」
時雨の指が青白く光った。
4
「氷結!」
ミカエルの腕が凍り付き始めた。
「な……な……!?」
ミカエルが驚きの声を上げている。
「司さんっ! 今のうちに葵さんから刀を取ってこっちに投げてください!」
「そうか!」
葵さんは今ミカエルによって操られている。
ミカエルが一時的にでも他のことに集中すれば、その間は操ることは出来ない。
俺れは葵さんの刀に触れた。
そして――……。
ヒュッ……!
頬が切れて真紅の血が飛び散った。
傷は浅いが、それよりも俺は驚かされた。
葵さんは再び攻撃を開始し始めた。
俺はさっきと同じような状況に追い込まれた。
「司さんっ……! えっ!?」
時雨の体が黒い半透明のボールのようなもので包まれた。
「暗黒の牢だ。この中にいる間、お前は魔法を使えない」
ルシフェルの声がした。
「何で……?」
「バカめ」
ミカエルが、腕に炎の魔法を放ち、氷を溶かすと話し始めた。
「確かに私は、魂を抜き取った人形を操っているが、具体的に命令して動かしているのではなく、ただ単に、“戦え”とだけしか命令していないのだよ。つま
り、私が他のことに気を取られていても人形はその役目を果たしてくれるのだ」
「ふん」
ルシフェルが鼻で笑った。
「自分が危険な状況下におかれながらも、司を助けるために行動するとは、なかなか感心だな時雨。だが、まだまだ考えが甘いな……」
時雨は暗黒の牢の中から叫んでいるが、その声は届いてこない。
「ふふふ……いいぞ! ミカエル、その出来損ないを殺せ!」
ルシフェルが闇の奥で高笑いをする。
その声は部屋中に響き渡った。
しかし次の瞬間、どこからか爆発音がした。
「なんだ?」
「どうやら、パーティーに新たなお客さんが来たみたいです」
ガブリエルがどこからともなく現れて言った。
「そうか……招待した覚えはないがな……」
再び爆発音がした。
部屋の扉が開き、勢いよく二人の魔法使いが駆け込んできた。陽炎と飛燕さんである。
「……飛び込んでくるなんて、パーティーマナー最低だな。今楽しい見せ物の最中なんだ……水を差さないで欲しかったが」
「ふざけないでミカエル! 司くんと時雨ちゃんを返してもらうわ!」
「ふん……弱いくせに……他人のためにのこのこ現れるなんて……馬鹿な女」
「……飛燕、挑発になんか乗るなよ」
「乗らないわよ!」
「……」
ルシフェルがゆっくりと立ち上がった。
「ようこそ我が城へ……」
「貴様……! ルシフェル!?」
「いかにも……で? キマイラの下っ端がこんなところに何しに来た?」
「……言わなくたってわかってんだろ?」
「……そうだな」
陽炎も、飛燕さんも余裕で会話をしているが俺はそれどころじゃない。
葵さんも腕がそろそろ限界であるはずなのに、まだ、弱々しく刀を振っている。
「まあせっかく来てくれたのだ、楽しんでいってもらわないとな……。だが、私は今忙しい……」
ルシフェルは、ちらとミカエルを見た。
「……ミカエル、ガブリエル、その二人は任せる。好きなようにして楽しませてやれ」
「くくく……」
ミカエルは不気味に笑っている。
ヒュッ……。
刃が髪をかすった。
「しつこい――っ!」
俺は刀を旋風で弾き飛ばした。
すると、葵さんはぺたりと地面に座り込んでしまった。息が上がっている。
ミカエルは檻の中の俺達を横目で見た。
「……役立たずな奴め」
そしてミカエルは陽炎と向かい合った。
「この間のケリでも付けるか、キマイラの狗」
「それはこっちの台詞だ、ミカエル」
「……じゃあ私は飛燕とやればいいのね、ミカエル?」
「ああ、そうしてくれ。ただ、くれぐれも邪魔だけはするな、そうしたら――……」
「たとえお前でもただではおかないって? まったく……本当に戦闘狂なんだから」
ガブリエルも心なしか楽しそうだ。
「飛燕、この前の借りは返させてもらうわ」
「やってみなさい」
戦闘モードにはいる四人の魔法使い。
俺は檻の中、時雨は暗黒の牢の中。
安全といえば安全だが援護することが出来ない。
コツ……コツ……。
足音が近づいてきた。
時雨の方を見ると、ルシフェルが立っていた。
「時雨を借りていく」
ルシフェルはそれだけ言うと、ルシフェルの椅子の後ろにある部屋へと時雨を連れて行った。
「待てっ! ルシフェルっ! ここから出せっ……!」
その声は、凄まじい音によってかき消された。
四人の魔法使いによる戦闘が始まったのだ。
5
陽炎と、ミカエルが距離を取った。
ミカエルが手から黒い魔力の玉を連続で放つ。
それを陽炎は全てかわすと、素早く反撃の体制に入った。
「稲妻!」
一直線に高速の矢がミカエル目がけて飛んでいく。
「当たるかっ!」
ミカエルも相殺するまでもなく、素早い身のこなしでかわした。
「……やるな、普通の魔法使いなら回避することなど出来ないはずだが」
「貴様、私の素早さを見くびるなよ? 私はルシファー内ではルシフェル様の次に強いのだ。素早さに至ってはルシフェル様よりも上だ」
「へぇ……」
「……?」
「トロイ連中ばかりなんだな」
陽炎の姿が一瞬にして消えた。
「……っ!?」
ミカエルが驚いて辺りを見回している。
「後ろか!」
ミカエルは後ろを振り向き、黒弾を放った。
しかしその方向には誰もいない。
「……上!?」
陽炎はミカエルの頭上を跳んでいた。
手をしたに向け魔法を放つ。
「落雷!!!」
轟音と激しい光と共にミカエルの頭上に雷が落ちた。
「やった……?」
「……甘い」
ミカエルの声がした。
煙が晴れて、ミカエルが姿を現した。
外傷一つなく、服も汚れていない。
「この程度の雷でこの私を倒せるとでも思ったのか? 陽炎」
「くっ……」
「水針!」
飛燕さんとガブリエルの戦いも始まっている。
「水柱!」
ガブリエルが一方的に攻め、飛燕さんは守備に徹している。
「……飛燕!やる気ないの?」
「……」
「海嘯!」
波が飛燕さんに押し寄せる。
しかし、飛燕さんはそれを指一本で止め、打ち消した。
「飛燕っ……!」
飛燕さんの足下から水の柱が現れた。
飛燕さんは高いところへと放り上げられてしまった。
「……」
「かかったわね飛燕!」
ガブリエルは右腕に力を込めると前にかざした。
「渦巻!」
俺を苦しめたあの魔法が発動する。
空中にいる飛燕さんは回避することが出来ない。
だが、飛燕さんの腕が渦巻に触れた瞬間、渦巻は消滅してしまった。
「いてっ」
飛燕さんは地面に落ちた。
「……私をなめているの?」
ガブリエルが少し怒ったような口調で言う。
「……別に」
「さっきから、守っているだけで全然攻めてこない!」
「いいじゃない、守備だって立派な戦略の一つでしょ?」
「くうっ……」
ガブリエルは、両手を頭上で組むと、それを飛燕さんの方へ向けた。
「じゃあこれならどう?流水撃!」
ガブリエルの腕から勢いよく水が発射される。
「……炎の稲妻」
飛燕さんは指先からお馴染みの魔法を放った。
しかし、流水撃と衝突すると一瞬にして消え去ってしまった。
「あちゃ、やっぱこれじゃダメか」
ならば、と飛燕さんは流水撃を左腕一本で受け止め、打ち消した。
「飛燕! ふざけているの!?」
「ふざけている……? とんでもない」
「じゃあ……本気を出して戦いなさい! じゃないと勝っても意味がないじゃない」
「いいの?」
「えっ……?」
「言っておくけど、今の私はふざけてもあなたをなめてもいない……」
空気がびりびりと震える。
「怒っているの、本気で……」
飛燕さんの目はとてつもなく怖い。
「後悔しても遅い……、私が本気になったときの恐ろしさ……あなたは知らないでしょう」
「……ふ、見せてもらおうじゃないの」
口では余裕な事を言っているが、ガブリエルの声は震えている。
たいていの人間ならば、今の飛燕さんを見たらすくみ上がってしまうに決まっている。
「水針!」
ガブリエルが魔法を放った。
それを飛燕さんはさっきと同じように右手で受け止める。
しかし、それをすぐ打ち消すわけでもなく、飛燕さんは水針を青白い魔力の球体にすると、左の指でそれをつついた。
ボン!!!
魔力の球が一瞬にして巨大化した。
「え……」
さすがのガブリエルも驚きの表情を隠せない。
「あなたにこれと同じ事が出来る?」
いや、並大抵の魔法使いはそんなこと出来ない。
相手の魔法を手で受け止めるだけでも高等技術なのに、それに魔力を加えてより強力なものにするときた。
しかも一瞬で、“相手の”魔法を。
ほいっ、と飛燕さんは魔力の球をガブリエル目がけて投げた。
咄嗟に横へと避けるガブリエル、しかし――……。
「爆裂!」
飛燕さんが魔法を唱えると、魔力の球が大爆発を起こし、辺り一帯を巻き込んだ。
当然ガブリエルも。
「……まだね」
飛燕さんが呟く。
煙が晴れると、そこには膝をついているガブリエルの姿があった。
「私を本気にさせたんだから……この程度で終わらないでよ」
「……ふふ、私が終わる? バカ言わないで、これからが本気モードよ」
ガブリエルの目が真剣になった。
この二人は覇気が違う。
檻の中で良かった……。
「ぐはっ……!」
陽炎の叫び声が聞こえたのでそちらを見た。
陽炎が胸に黒弾を喰らって苦しそうにしている。
「どうした陽炎、貴様の自慢はスピードではなかったのか?」
「ぐ……ぁ……」
ミカエルは、黒弾をまた連射した。
陽炎は一撃目と二撃目は回避したが、三撃目はどうしても当たってしまう。
手を前に出し、相殺する体制に入った。
しかし、黒弾が手に触れた瞬間陽炎は後ろへ激しくはねとばされ、そこに四撃目が命中した。
「陽炎っ!」
思わず叫んだ。
陽炎はまだ立ち上がることが出来るようだが苦しそうに息をしている。
「陽炎、貴様の弱点が分かったぞ?」
ミカエルは楽しそうに言った。
「貴様にはスピードがある代わりに魔力が低い……魔法使いにとって致命的な弱点だ!」
陽炎が歯ぎしりをするのが見えた。
つづく
<あとがき>
最終回まで後一歩。あとは最終話を書き上げていくだけです。
しかし、この最終話を書き上げる、といった作業は決して楽ではないということを今作品で初めて理解しました。
まず今までの話を全て読み直し、明かされていないこと、謎のままで終わってしまうことはないか? とチェックをしなければなりません。
そして、今までの全てのまとめとして最後はきれいに仕上げなければならないのです。
〜トキノアメ〜はいまや長編になってしまいました。
途中で挫折することなくここまで来ることが出来たのは奇跡です。
最後の一歩に全力を尽くしていきたいと思いますので応援をよろしくお願いします。
……と真面目な話はこれぐらいにしておいて。
今回の話では戦闘シーンがかなり多く含まれております。
私は戦闘描写が苦手なので苦労して苦労して、なんとか書きましたが変なシーンも多いですよね?
そういうのは見過ごしてください。おねげーだぁ!
あと、全体を通して真面目すぎました。
明が出てこないとここまでシリアスになっちゃうのですねぇ。
そんなわけで、明が主人公のショートストーリーでほっと一息ついてください。
それでは。
<おまけ 宗堂 明の初デート>
夏の日差しがまぶしい。
財布の中身もまぶしい。
俺はこの日のために、アイスクリームを買うのを我慢してお金を貯めたのだ。
そう――今日は葵ちゃんとのデートの日なのだ!
バババーン(序曲と共にタイトルが上がる)
「ごめんね、待った?」
葵ちゃんが走ってきた。
Tシャツに麦わら帽子、そして青いスカート。長い黒髪がきれいだ。葵ちゃんの服装もまぶしい。
「いや、俺も今来たところです!」
「本当? 大分待ったって感じだけどなぁ」
「なんでわかるので?」
「だって足の動きを見ればわかるよ、あちこちうろうろしているんだもん」
「おおっ! 葵ちゃん名探偵になれるんじゃない?」
「……怒っていない?」
「大丈夫です! さあ行きましょう!」
俺が、葵ちゃんとデートをすることになったのは、数日前のあの日のことである。
それは学校の帰り、隣の学校に通う葵ちゃんと偶然(注、必然)に出会ったときのことです。
葵ちゃんが観たい映画があり、ちょうど俺も観たかったので一緒に行くことになったのです。
実は前売り券を一枚余分に買ってしまい、(注、時雨を誘うつもりで)困っていたのだ! ということで、映画を二人でのんびり観ようということになったの
です。
電車に乗ること十分、繁華街の映画館に着いた。
「うわあ、並んでいるね明くん」
「俺達は大丈夫! 前売り券があるのです!」
「本当に私が使っちゃっていいの?」
「いいですよ!」
「わーい、ありがとう!」
俺は葵ちゃんに券を一枚渡した。
早速、映画館の中に入る……。
しかし、入り口のところで俺達は止められた。
「お客さん、これ使えないよ」
「へ?」
「だって、ここ切り取ってあるじゃない。いるんだよな、時々目をごまかせると思って一回使った券をもう一回使おうとする奴……」
「え……だってここキリトリ用にミシン目があったんスけど……」
「それは俺達が切りやすいようにしているんだ! どっちにしろ入れないよ」
「Σ( ̄Д ̄;)!!!」
「……明くん?よくその顔文字使うね」
「ご……ごめんなさい葵ちゃん」
「?」
ここまで来て、ごめん、この券使えないだなんて言えない。
葵ちゃんの笑顔を曇らせたくない。
「悪いっ! ちょっと……あの……トイレ!」
俺はダーッと走った。
「えっ? あの……待って……明くん!?」
俺は列の最後尾にいた。
上映開始まであと十五分ある、それまでに券を買って……何気ない顔で戻って……そして葵ちゃんに渡して……観るっ!
上映開始まであと十分……。
あと五分……。
あと一分……。
「はい、次の方〜」
「ラスト・ニンジャ!! 高校生二人!!!」
「4200円です〜」
「はいっ! 5000円!」
「おつり800円です〜」
「早く! 早くしてくりえぇぇぇっ!!!」
俺は二人分のチケットを握りしめダッシュで駆け戻った。
「はぁ……はぁ……ただいま。ごめんね……葵ちゃん」
「ううん、いいんだ」
葵ちゃんは少し怒っているようだった。
まぁ無理もないかな……。
「はい、これチケット」
「え? 買ってきたの? 今?」
葵さんに笑顔が戻った。
「なぁんだ、明くん。チケット新しく買ってきてくれたんだ……」
「ははは……葵ちゃんをおいていきなり帰ったりはしませんよ」
「でもいいの? お金……かかっちゃったんじゃない?」
「いえいえ! 別に問題ない! のーぷろぶれむ!」
「じゃあ……早く観ようか」
そして俺達は何とか映画館へ入った。
もうすでに映画の予告編が始まっている。
「席空いてる?」
「わからない……暗いからなぁ」
「……じゃあ」
「ごめんなさい、葵ちゃん……」
「ううん、いいんだ。立ち見でも明くんがおごってくれているんだもん」
「葵ちゃん……」
「さっ、楽しもうよ」
俺達は後ろで立って映画を観た。
終盤に近づくにつれ、足が痺れてきて辛くなってきた。
終わった後、外に出て葵ちゃんに話しかけた。
「足疲れなかったですか?」
「うん、ちょっと疲れたね」
「よよよよよよろしければばっばばばー喫茶店にでも行きません?」
「うん……いいよ」
喫茶店でお茶を頼んだ。
クーラーがきいていてとても気持ちがいい。
「今日は本当にごめんなさい! 葵ちゃん!」
「何で謝るの?」
「俺のせいで楽しい映画がぶちこわしだったでしょう?」
「ううん、立ち見っていうのもなかなか良いなぁって思ったよ、一番後ろだから後ろの人を気にしないで“のび”をすることができるもん」
「はぁ……」
「それに、明くんも一生懸命になってくれたし……。本当にありがとう……」
「……」
「……」
「あの――……」
「何?」
「いや……なんでもない……」
「あっ、私言いたいことあるんだけど……」
「……何でしょう?」
「この前、付き合ってって言ったじゃない……あれって本気?」
「ほ……本気です、今も……あっ……」
「……じゃあさ、付きあおっか」
「!?」
葵ちゃんは、俺が言おうとしたことを先回りして言った。
「はい! よろしく!」
ついに俺にも春が来た。(注、今は夏ですが)
葵ちゃんとおしゃべりし、その後勘定を済ませた。
外に出ると、もう五時過ぎなのにまだ高い太陽がまぶしかった。
後ろを葵ちゃんがついてくる、その姿もとてもまぶしい。
そして――……俺の財布は……寂しかった……。
ジャジャーン(画面暗転)
めでたしめでたし(オチが弱い)
NEXT最終話・トキノアメ
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