〜トキノアメ〜

ISM 作


<登場人物>
弥生 司…この物語の主人公で弥生家の養子、魔法使いである。
弥生 巌龍…司を施設から養子に迎えた男。
雪野 時雨…司のクラスに転校してきた少女、強力な魔力を持つため、魔導組織ルシファーに狙われている。
宗堂 明…司の友人、常にハイテンション。現在失恋のショックによりボロボロ。
飛燕…魔法使い、司に魔法について教える。今は時雨のボディーガード。
霧崎 葵…司の幼なじみ。
陽炎…規則を破った魔法使いを罰する組織キマイラの一員。
ガブリエル…魔導組織ルシファーの一員、かなり頭のきれる女性。
ミカエル…魔導組織ルシファーの一員、闇の魔法を使いこなす。
ルシフェル…魔導組織ルシファーのボス、それ以外のことは不明。

<第八話 平和の終わり>

 1

 そこは田舎の病院だった。

 周りは山に囲まれ、高い建物もなく田畑が広がっているとてものどかな場所にぽつんと寂しく病院は建っていた。
 俺は車から降りると一度深呼吸をし、病院へと入った。

「面会でございますか?」
 受付の人が話しかけてきた。
 俺が親父の名前を受付の人に言うと、ロビーに座っていた女性が俺の所に向かってきた。
「あなたは誰? 何であの人に会うの?」
 見たところ、三十代後半から四十代前半の女性は、はっと気付いたような動作を見せた。
「あ…ああ、司くんね。話は聞いているから、こっちに来て」
「失礼ですけど…
あなたは?」
「司くんのお父さんの妻よ、再婚したの五年前に」
「はぁ…

 俺は親父の再婚者と一緒に病院の廊下を歩き、そして部屋の前まで来た。
「入っていいよ」
「……」
 この扉の奥に親父がいる。
 親父を見たら俺はどんな感情が起こるだろう。
 ほとんど記憶から薄れつつある親父の顔を見るのははっきり言って嫌だった。
 だがここまで来たら後には引き返せない、俺はもう一度深く深呼吸をして、扉を開けた。

 そこにいたのは、とても老けてベッドに倒れている親父だった。
 虚ろな目をして、こっちを見ている。

「今は意識があるけど、医師はもうダメだって」
 親父の妻が言う。
「……悪いけど、あっちに行っていてくれないか? 二人で話がしたい」
「え…
ええ、ごゆっくり」

 俺はベッドの傍まで歩いていき、椅子に腰掛けた。

「お
…おお…司…か」
「俺だ、親父」
「すまなかった…
お前には申し訳ないことをした…。どうか…この愚かな俺を許してくれ…」
 親父は、とても弱々しい口調で話し出した。
「お前には今だからこそ言っておかなければ…
ならないことがある。あいつ…お前の母さんのことだ」
「……」
「あいつは…
魔女だった。知り合ったとき、俺はあいつが魔女でも別に構わない…、魔女でも人間には変わりない…そう思っていた…」
…お袋は、魔法使い…
「だが、司
…お前が小さい頃魔法を使ったとき、私は魔法とはとても恐ろしいものだと初めて思っ た。カードを破いた事件以来、人に話してもらうことも少なくなり、家も貧乏で上手くいかなかった、その全ての怒りを俺はあいつにぶつけてしまったのだ…。毎日暴力を続け…、あいつは衰弱して…最後には死んでしまった…」
…! お袋は…貴様に殺されたのか!」
「そのときは、魔女を殺すということが正義だと思いこんでいた…
だから何の罪悪感も働かず…、司、そのうちお前も殺すつもりだった」
「貴様…
っ!」
 俺は親父の首に指を当てた。
…俺を殺すつもりか、司」
「……」
「どうせ俺はもう終わりだ…
だが、せめて最後まで話を聞いてくれ…」
「……」
「お前に毎日暴力を続けていくうちに、ある日ついにお前に反抗された。そのときに俺は、なんて恐ろしいことをしてきたのだ…
と気がついた。だがそれでも後には引けない…、かといって良心が邪魔をしてお前を殺すことは出来なかった…。家においておけばいつか自分が殺される…そう思った俺はお前を私から遠ざけるために施設に預けたのだ…。しかし、それで俺の心が安まることはなかった…。毎日お前が…成長したお前がやってきて俺を殺す…そんな夢を見続けた…。司、今お前が俺の首に指をかけているように…、魔法で俺を殺すのを…!」
「……」
…俺を憎んでいるか…、殺してもいいぞ…。どうせ魔法使いならば証拠隠滅も上手いのだろう…?」
「黙れ、俺はもう貴様に憎しみなんて微塵も感じない。それに――俺は復讐を誓って生きてきた人を知っている。でもその先にあるものはなにもない、復讐を果 たしたとしても何も報われないんだ」
「ならば…
、その怒りをどうやって静める?」
「…
帰る」
「司…
!」
「俺は貴様みたいに、怒りに身を任せて生きているわけじゃない。それに、もう憎しみなどどうだっていい」
「…
何故…、そう簡単に憎しみを捨てられる?」
「知るか、貴様の顔を見ていたらそんな気が失せていったんだよ」
「司……」
親父は突然、苦しそうに息をし出した。
「親父?」
「す…
…な…かった…」

 親父は動かなくなった。


 その後、医師達が駆けつけたが、甲斐なく親父は死んだ。

 俺が病院から出ようとしたとき、親父の再婚者の女性に声をかけられた。
「あの人の前の女は…
私の同級生だった。昔から気に入らない女だとは思っていたけれど、今になるとさらに 腹がたつ…。そもそもあの人が死んだのは、あなたが生まれたから…! あなたが生まれてきたせいであの人は寿命を縮められたのよ…! あの女が結婚していなければ…! あなたが生まれていなければ…! 魔法使いだか魔女だかなんだか知らないけれど、とにかくそんなもの…滅んでしまえばいいのよ!」
 それは、夫を亡くした悲しみを俺にぶつけているだけだった。
 こうして今まで、恨まれた魔法使いがどの位いるのだろうか。
 憎しみという感情は人を変え、人生を変える。
 だがその先には何もない。
 ただ果てしなく暗い道をさまよい続けるだけなのだ。

 すっかり暗くなった外へと出た。
 外では車で使用人が待っていた。
「司様、どうでしたか?」
「ん
…、疲れた」
「…
そうですか、それでは帰りましょう」

 車に乗って、病院を後にする。
 ロビーの中から見つめる女性の目が冷たかった。

 2

「司様、ご友人の方が見えていますが」
「あ、すぐ下に行くよ」

 今日は日曜日、葵さんが遊びに来ると言っていた日だ。

 俺は一気に階段を駆け下りた。
 少し息を切らして玄関に行くとそこにいたのは。
「よぉー! 司!」
 何故か明だった。
「明…
お前!」
「いやぁ、どうせ暇だろうと思ってなぁ! 遊びに来てやったのだ!」
「あのなぁ…
今日はちょっと…困るな」
「俺は全てお見通しだぜ! 司!」
「何?」
 ……と、横から葵さんが現れた。
「こんにちは、司くん」
「あ
…何故…?」
「いやあ、ちょうど呼び鈴を押そうと思ったら横から声をかけられちゃってねぇ! 葵ちゃんが遊ぶなら俺も一緒でいいだろ?」
 ちっ
…全ての不幸な偶然が重なってしまったのか。
 同時に明と葵さんがやってきて
…ってこいつ、初めてであったくせに“葵ちゃん”かよ…

「まあ上がれよ」
「おじゃましまーす」
「上がるぜー」

 そして俺は二人を部屋へと案内した。

「いやぁー、何回来てもこの家はすげーなー」
「何回って
…、まだ二度目だろ?」
「そうだっけ? まあそんなことはどーでもいいや。ところで、今日はお前に聞きたいことがある!」
「…
なんだよ」
「時雨ちゃんのことだ!」
「それは今度にしろ。葵さん、悪いね」
「ううん、構わないよ。ところで時雨ちゃんって誰?」
「学校のクラスメイト、今度遊園地行くだろ? その提案者が彼女」
「へー、そうなんだ」
 横から明がもの凄い形相で睨んできた。
「ちょっと待て司。遊園地って何だ?」
「あ、言い忘れていた。今度の夏休み、雪野さんが遊園地行かないか? って誘ってきたんだ。お前もどうやら誘うつもりだったみたいだから、一緒に行く か?」
「当然だろ! 時雨ちゃんとお前をツーショットにするわけにはいかーん!」
「いや、葵さんも行くんだけど」
「はい、よろしく」
「マジで? 司…お前両手に花のつもりだったな?」
「いや、そんな気ないです」
 見ると、葵さんがくすくす笑っている。
「二人とも面白いね、なになに? 恋の話でもしているの?」
「そーなんですよ、こいつ俺の彼女奪ってしまいましてね、毎日家まで送り届けているんですよ」
「ふぅん…
、なるほど」
「ちょっと待て、彼女ってなんだ! 送るのにはちゃんと理由があるし…
、大体お前からなんて奪ってなんかいないぞ?」
「うそつけぇぇぇ! いつもいつも楽しそうに話しているじゃないかぁぁぁぁ!」
「……一つ聞くが明」
「なんだよ!」
「あの――…
例の計画はどうなったんだ?」
「例の計画…
? ああ、時雨ちゃんとラブラブ作戦か…
 途端、真っ昼間なのに外が暗くなった。
 恐らく太陽が雲に隠れたのだろう。
「失敗だよ
…、時雨ちゃんには好きな人がいるらしい…
「そーか」
「一言で済ますな! 俺にはわかっているんだ! 時雨ちゃんの好きな人が…
!」
「ねえねえ、ちょっと待ってよ明くん」
「はい! なんでしょうか葵ちゃん!」
「その…
時雨ちゃんがどんな人か知らないけれど、まだあきらめるのは早いと思うよ。別に時雨 ちゃんが司くんのことを好きとは限らないし、あんまりあたっちゃダメだよ」
「はぁ…
すみません」
 流石は葵さん、説得力があるというか何というか。

「ででで? 司くんはその時雨ちゃんが好きなの?」
「…
っ、何をいきなり聞くんですか!」
 何故か敬語だし。
「毎日家までエスコートしてあげているなんてなかなかやるねーっ。中学校時代はくらぁーい人だったのに」
「ですからそれには多分理由があるのです!」
 ああ、何を言っているんだ俺は。
「ふふ
…おもしろいね司くんって」
 遊ばれているーっ!?


…じゃあ俺そろそろ帰るわ」
「もうこんな時間? 家が近いからまた来るね」
「うい、気をつけてね」
「おう! 気をつけるぜ!」
「お前じゃねぇって、お前なんか心配してどうするんだ」
「ひっでぇー!」

 二人を玄関まで見送り、部屋に戻って一息ついた。
 楽しかったようで無駄だったような、くだらない会話で盛り上がることができた日曜日。

 ルシフェルのことだとか、親父の死だとか、面倒なことを忘れさせていてくれた。

 ――あのままずっと忘れていられたらいいのに。

 だが、楽しいひとときはすぐ終わる。
 時は進んでいく。

 俺達の平和な日常は、いとも簡単に壊されてしまうのだった。

 3

 次の日の朝、町に異変が起きていた。

 バスの中から観た駅前の広場は大勢の人でごった返しており、TV局の車やヘリまで来ているほどだ。
 俺が学校に着いたとき、クラス中はその話題で持ちきりだった。

「司さん、おはようございます」
「あ、雪野さん。おはよう」
「……、司さん、今日駅前広場に人が集まっているって本当ですか?」
「うん、バスの中から見たけど本当だよ。何が始まるのかは知らないけどな」
「そうですか
…、他の人に聞いても詳しいことはわからないんですけど…、なんだか嫌な予感がします」

 ――嫌な予感。

 確かに、さっきから胸騒ぎがする。
 この胸騒ぎの正体は一体…
なんだろう。

 しばらくして、担任の先生が入ってきた。
 やけに慌てているようなそんな様子だ。
「今日、一時間目は全体集会となった、すぐに講堂へ移動すること!」

 ――やはり何かあるんだ。

 講堂で、校長先生が話し出した。
 いつもだったら、皆ろくに話など聞かないのだが、今日はどの生徒も真剣な表情で耳を傾けていた。

「生徒諸君も知っている通り、最近この付近で多くの人が負傷する事件が起きた。そこで本日より、最終下校時刻は四時、寄り道をせずに家へ帰ること。六時以 降の外出は禁止、例外はない。さらに、この事件について不思議なことが多すぎるとのことで各国から多くの人が集まってきて捜査を始めている。諸君は絶対に 捜査の邪魔をしないようにすること、以上!」

 話が終わり、教室へと帰っていく途中、明が話しかけてきた。
「おい、司、どう思う? この話」
「どうもこうもないさ、物騒な世の中になったって事だろ」
「それにしてもただの爆発のくせにやけに大袈裟だよなあ。原因がわからないと、人はどうやってでも知ろうとするよな」
「原因か…


「あの…
司さん」
「おっ、時雨ちゃんどうしたの?」
「あ…
宗堂くん、ごめんなさい…ちょっと司さんと二人で話してもいいですか?」
 途端、明の頭の上に雨が降り出した。
 今はそんなギャグムードじゃないからつっこめない、悪いな明。

「なに? 雪野さん」
「あの…
今日から家に送ってくれるの…もういいです」
「なんで?」
「校長先生が、六時までに家に帰っていることって言っていたじゃないですか…
。私の家に寄っていたら時間なくなっちゃいます」
「いいよ、結構時間あるし、平気だって」
「あ…
でも…ちょっと不安なんです。私のために…司さんが…酷い目に遭わされるような気がして…」
「酷い目?」
「あっ…
気にしないでください…ごめんなさい」

「終わったかー! 司―っ!」
 明が後ろからいきなり現れた。
「それじゃあ
…」
 と雪野は小走りで教室へ向かっていった。
「おい、お前がいきなり出てくるから雪野さん行っちゃったじゃないか」
「なんだよ! 二人でさー! 楽しそーに話やがってよー!」
 楽しそうに見えたか?

 とにかく、心臓が鳴りやまない。
 気付けば空もグレーに染まっていて、不吉なことの前兆のように見えた。


 下校時間になり、俺は別にいいですよ、と言う雪野の意見を無視して家まで送り届けた。
 深い理由はないが、そうすることでこの胸騒ぎも少しは収まってくれるだろうと思ったからだ。

 しかし、胸騒ぎは収まらなかった。
 先ほどからポツポツと少しずつ雨が降り始めている。
 バスに乗り、駅前の広場を見てみると、雨が降っているにもかかわらずステージの上で背広を着た男がマイクを持って何かを話している。

 バスを降りて、家まで歩き出した。
 雨が降っているせいもあるが、異様に町全体が静まりかえっている。
 普段から人通りは激しくないが、それでもこの静けさは異常だ。

 ――何かが起ころうとしている、それも、とても恐ろしい事が。

 家の扉を開けると、使用人がタオルを持って出迎えてくれた。
「司様、濡れてしまったのではありませんか? 部屋に着替えを用意しておりますので、着替え下さい」
「あ、悪いね」
 そういえば体がびしょ濡れだ。
 部屋に戻って、用意されていた着替えを済ますと俺はベッドへと転がった。

「司様!」
 直後、使用人の呼ぶ声がした。
「早く来てください、大変です!」
 俺はベッドから跳ね起きると階段を下りて居間へと向かった。

「どうしたの?」
「いきなり大きな声を上げてすみません…
とにかくこれを見てください!」
 俺はテレビを見た。
 テレビではニュースをやっており、駅前の広場の様子が映し出されている。

「最近不審な事件が続くS市に、本日世界各国の学者が集まり、駅前で演説を行いました。演説の内容は、市民への注意の呼びかけと、これからの対応について でしたが、学者達の意見によればかなり事態は深刻とのことです」
 画面が変わり、この国の人ではない人が民衆に向かって話しているのが写った。
 下に、意味が分かるようにテロップが表示されていた。

「我々は、主にこの世の不可思議な現象について調べておりますが、今回のケースはきわめて興味深いことばかりです。物理的には不可能な現象が、次から次へ と起こっている
…、これについて我々は一つの仮説を立てました。
 それは、かつて地上に繁栄していた魔女の生き残りがこの町にいるということです。だとしたら、今までの歴史がそうであったように、この町にも災いが降り かかるかも知れません。それを未然に防ぐため、我々は精一杯の努力をしていこうと思います」

 再び、ニューススタジオの画面に移り変わり、アナウンサーが記事を読み始めた。

「司様
…? どうなさったのですか? 怖い顔をして」
「ん…
、いや、ちょっと…考え事」
「魔女がいるだなんて…
そんな非科学的な話とても信じられませんよね。こんな話ばかりをしていてよく民衆も 朝からずっと聞いていられますよ」
「朝から?」
「ええ、さっきはずっと生放送でやっていたのです。今の人と同じように魔女だとか、呪いだとかそんな話ばかりです」
「…
そうか」

 魔法使いだなんて、そんな話、誰も信じるわけがない。
 そう思うことで少しは気が楽になるだろうか?
 相変わらず、テレビでは非現実的、非科学的なことばかりを説明している。

「俺もう疲れた。部屋に入ってゆっくりしているから夕食になったら呼んで」
「はい、わかりました」
 そして俺は再びベッドに倒れ込んだ。


 次の日、登校中のバスの中から駅前の広場を見た。
 一人の男が、ステージの上で何か叫んでおり、それに呼応するかのように周りの人々も拳を突き上げ声を上げていた。

 この時に、これから何が起こるかを理解していればよかったのだが…



「おはようございます」
 といつも通り雪野は言った。
「司さん、昨日のニュース見ました?」
「ああ、大変なことになったな」
「はい
…、一体誰が魔法なんて人前で使ったんでしょうか…
「そのことなんだけどさ、ちょっとここだけの話…

「はい?」
「ミカエルっていう、ルシファーの一員が俺を狙って現れたんだ」
「えっ…
! 大丈夫だったんですか!?」
「…
全然大丈夫じゃないよ、陽炎っていう魔法使いが助けてくれなかったら今頃死んでい るって。でも、その戦いの様子を常人にしっかりと見られちゃってさ…
「そうだったんですか…

「それにしても仮説がいきなり魔女がいる! だなんて
…勘が良すぎるよな」
「いいえ、本当はわかっているみたいですよ。昔の文献や写真から魔法使いがやったことと照らし合わせて、その共通点から仮定したらしいんです」
…そうか、でも普通にしていれば問題ないよな。魔法使わなければ常人と変わらないわ けだし」
「そうですね
…、今度からお茶を入れるときに氷の魔法使うの止めます」
「お茶…
? 氷の魔法…? まさかこの前俺が飲んだお茶って…
「あっ
…失言!」

 いつもの帰り道を雪野と一緒に歩いた。
 ついこの間まで活気があったこの商店街も今では人通りが少なく、店もほとんど人が入っていない。
「やっぱり、人を不安にさせるんですね」
 雪野が言った。
「そうだな
…、常人に原因なんてわかりそうにもないしな。原因がわからない事件ほど怖いものな んて無いよ」
「でも…
ニュースでは魔法使いがいるとか言っていましたよ?」
「無理無理、あんなの誰も信じないって」
 そう信じたかった。

「本当に
…勘がいいよな…
 俺は雪野に聞こえないように呟いた。

 バス通りまで来ると、俺は珍しい組み合わせと出会った。
「おっ! 司と時雨ちゃんじゃないか!」
 年中ハイテンションな男、宗堂明と――
「あら? 司くん、今帰り?」
 霧崎葵である。

…明、何故お前こっちに?」
「決まっているだろ? 葵ちゃんと一緒に下校するためだ!」
「はぁ…
? だって…お前の家って…
 明の家は学校から徒歩二十五分の所にあり、バス通りまで来てしまうと学校からよりも距離が遠くなってしまう。
「そこ! 気にするな! 葵ちゃんをバス停まで送ってやるのが俺の仕事であり天から与えられた使命なのだ!」
「…
よくわからないが、ようするに帰り道偶然二人が出会ってしまった…と」
「いや違う! これは偶然などではない! 必然なのだ! 俺が求めれば、彼女は俺の前に姿を現し、彼女が求めれば俺はたとえ火の中水の中どこだって行く!  これは俺の運命なのだ!!! ちなみに運命と書いて“さだめ”と読む!」
 葵さんがコイツを求めるかどうかは知らないが、コイツ…
心変わりしたな?
「あのー
…司さん、こちらの方は知り合いですか?」
「あ、そーか、雪野さんは知らなかったっけ。こちらは俺の中学までの同級生の霧崎葵さん」
「あ
…、葵…さんですか? 初めまして…雪野時雨です」
「あーっ! あなたが時雨ちゃん? こないだ話聞いたよー!」
「は
…はい…ところでこないだって…どういうことですか?」
「この前、司くんの家に遊びに行ったときに聞いたんだ」
「そうなんですか…
、司さんの家…いいなぁ」
「雪野さんなんか言った?」
「いいえ、なんでもありませんよ」

「ところで葵ちゃん、そろそろ行きませんか?」
「そうね、先生も早く帰るようにって言っていたし、じゃあね司くん、時雨ちゃん」
「じゃあな」

 二人は横に並んでなにやら会話をしながら駅の方へと向かっていった。
 後ろから見るとすごく違和感を感じるのは俺だけだろうか?

 その後、俺は雪野を家まで送ってあげたあと、バスに乗って家に帰り着いた。

 だが、俺の家にも異変が起きていたのだった。

 4

 屋敷の門の前に多くの人が集まっている。
 彼らは屋敷の中に向かって大声で何かを叫んでおり、入り口で使用人が帰ってもらうように説得しているようだ。

 一体何が原因なのか、とにかく確かめるために家へ近づいた。
 そのとき、ある男の声がはっきりと耳に飛び込んできた。
「弥生司を出せ! あいつが魔法使いだということはわかっているんだ! 今回の事件は全てあいつが引き起こしたことなんだ!」
 足の動きがぴたりと止まり、すかさず後ろの曲がり角まで戻り姿を隠した。
「弥生司を出せ! これは魔女狩りだ!」
 何人ものの人が叫び続けている。

 ――バレた?

 でも何故バレたのか?
 俺が魔法使いだと知る人は、ほとんどいない。
 雪野、飛燕さん、陽炎、親父、ルシファーのメンバー、そして恐らく父上…

 親父は死んでいるし、雪野、飛燕さん、陽炎は絶対にそんなことを言わない。
 だとしたら、ルシファーの一員が俺を陥れるために…


 とにかく、今は考えている場合ではない。
 問題はどうやって見つからないようにするかだ。

 このまま、この辺をうろうろしていても見つかるだけだ。
 かといって逃げたってしょうがない、あいつらもちょっとやそっとじゃ帰らなさそうだし
…。

 塀から顔を出して様子を見た。
 すると、人々の中に見知った顔があった。

「あの女
…親父の再婚相手だ…
 あの女ならば、親父から俺が魔法使いだということを聞いていたかも知れないし、俺に恨みを持っているはずだから納得がいく。

「ちっ
…死んだ後も俺を苦しめやがって…あの親父…」
 しかし、今そんなことを考えても何も解決にはならない。

 そうしている間に、屋敷の前に一台の黒い車が止まった。
 運転手が扉を開けると、門の前にいた人々が一斉にひいた。
「貴様ら、人の屋敷の前で何を騒いでいるのだ!?」
 下りたのは父上である。
「弥生司の父か!? 司はどこにいるんだ!? さあ早く出せ!」
「司は私の大切な息子だ、きさまら屑どもに渡しなどしない
…。それから口には気をつけろ、私の力を持ってすれば貴様らなど簡単に社会から追放 できるのだぞ! さあ! とっとと消えろ! 屑どもめ!」
 空気がびりびりと震えた。
 さすが父上は威厳がある。
 それを聞いて周りにいた人々は逃げるようにして去っていった。

「もう出てきて良いぞ司」
 父上は俺の方向を向いて言った。
「父上っ
…ありがとうございます」
「お帰りなさいませ、巌龍様、司様」
「ふん…
おいお前、これはどういうことなのか説明してもらおう」
「はい、では中へお入り下さい。
…」


「魔女狩りだと!?」
 部屋全体が揺れた。
 父上がテーブルに強く手を打ち付けたせいで、ティーカップの紅茶が少しこぼれた。
「馬鹿な! そんなこと許すわけにはいくものか!」
「父上…

…おいちょっと下がっていてくれ、司に話がある」
「はっ…
では失礼…」
 使用人がさっさと部屋から出ていった。

「司、今お前に言っておかなければならないことがある」
…はい」
「お前はもう気付いているかも知れないが、魔法使いだ」
「…
もう気付いております、すみません…
「謝る必要など無い、お前が魔法使いだからといって悪いことなど一つもない。だから、魔女狩りなどと適当に言い訳をつけるあんな屑どもの言うことなど聞く な。わかったか!?」
「はい
…それで父上…一つ聞きたいことがあるのですが…ダメでしょうか?」
「何だ? 言ってみろ」
「父上が俺
…私が魔法使いだというのを知っていたならば、どうして施設から私を引き取ったので すか?」
…死んだあいつも魔女だった」
「…

「代々、名門の魔法使い一族を継いできたらしいが子宝にも恵まれなかった。そしてとうとう死んでしまい、一族の血が途切れたのをなんとか誤魔化すために、 魔法使いであるお前を連れてきたのだ」
…では私は誤魔化すためだけに…
「いや、それだけだはない。安心しろ」
「それだけではない…
とは?」
「いずれわかる。さあ、もう早く部屋へ戻れ。私は疲れた」

 部屋に戻り、ベッドで横になりしばらく考えた。
 父上は最初から俺が魔法使いであることを知って、施設から引き取った。
 それを父上は名門の魔法使い一族の血を引き継がせるためだと言ったが、本当にそれだけの理由なのだろうか?
 それでは何故俺に今まで俺が魔法使いであることを言わなかったのか?
 そういえば、魔力を高める最高の方法として瞑想を奨めたのも父上だった。
 父上は――…


 ふと、外が騒がしいことに気がついた。
「またさっきのやつらか…
?」

 窓から外の様子を伺ってみたが、どうやら目的はさっきと違うようだ。
 男数人が、一人の女子高生を取り囲んでいる。
 その制服には見覚えがあった。

「葵さん!?」

 俺は階段を勢いよく下りると、外に飛び出した。
 屋敷の裏側――さっき葵さんが男に囲まれていた場所へ走ってまわった。

「葵さん! どうしたの!?」

「あっ…
つか…」
「なんだお前は? 今取り込み中だ! あっちへ行け!」
 どうやら男はチンピラなどではなく、さっき家の前にいた人であった。
「何をやっているんだ?」
「魔女狩りだ、この女の瞳を見ろ、緑がかったこの瞳は魔女である証拠!」
「だからさっきから私は魔女じゃないって言っているでしょ!」
「ええい! 何でもいいんだ! 怪しい人物はところ構わず連れてこいと言われている! そして見事、本物の魔法使いや魔女を捕らえたものには一千万円の賞 金がでるのだ!」

 一千万円!?
 魔法使いを捕らえただけでそんなに高額を出すなんて…
そこまで常人達は恐れているのか…?

「捕らえてどうする気だ
…?」
「魔女であった場合は殺すに決まっているだろう
…? そんなこと当たり前だ」
「…
一体誰がそんなことを言ったんだ?」
「お上だよ、お上。S市警視庁からのお達しだ」
「…
! 何だって!?」

 そんな非人道的なことを警察が許したわけがない。

「どこにそんな証拠があるんだ?」
「ほれ、この紙を見な、坊や」

 男の一人が出した紙には、警視庁署長のサインまで入っていた。

「嘘だ
…」
「嘘じゃないぜ、魔女狩りは市が行っていることだ。魔女による被害を防ぐためにな
…」
「……」
「さらに、このでっかい屋敷に弥生司という魔法使いがいることもわかっている。さっきは怖えぇ老いぼれのせいで退散せざるを得なかったが、今度はあいつが 外出中を狙うつもりだ」
「…
!」
 葵さんが驚きの表情を見せる。
…その弥生司が…魔法使いじゃなかったらどうする気だ?」
「あいつは魔法使いだ、今回の事件の原因を作り出した
…な。偉い学者さんが、警察の取り調べをうけた際のお前の言動からそう判断したらし い…。他にもまだまだ魔法使いがいる可能性は否定できないが、まずは確実に一人捕らえ る!」
…じゃあ、葵さんは関係ない。放してやってくれよ…!」
「いいや、この女が魔女である可能性もある! 二人捕まえたら二千万だぜ? 二千万! このチャンスを逃すわけがないだろう?」
「くっ…
!」

 突然、後ろで女の叫び声がした。
「あーっ! 弥生司がいた! あそこよ!!!」

 その声と同時に、どっと大勢の人が集まってきた。

「何! お前が弥生司だと!? 
…ふふふ、飛んで火に入る夏の虫とはこういうことだ!」
「司くん! 逃げて!」
 葵さんが叫んだ。

 逃げ出したいが、前には男三人組、後ろには大勢の人、横は屋敷の高い塀。
 しかも葵さんという人質まで取られている。

 仕方ない…
魔法使いだということがすでにバレているならば…
 と魔力を右腕に集中させた。

 だが冷静になってよく考えてみると、俺が魔法使いである証拠なんてどこにも見つかっていない。
 魔法を使ったらそれこそ、俺が魔法使いであるということを証明していることになるのではないか。

 ……と、そんなことを考えていたら、後ろから走ってきた別の男に飛びかかられた。
「ぐっ
…!」
 地面に押し倒され、手を後ろで縛られた。
「やった! 俺が捕らえたぞ! 一千万円はいただきだ!」
「くそっ
…遅かったか…!」
 葵さんを取り囲んでいた男達は悔しそうに歯ぎしりをしている。

 顔を上げると、目の前で、親父の妻が俺を見下していた。

「ふん、いい気味だわ、これもあの人を殺した罰よ…
! たっぷりお礼をさせてもらうからね…! フフフ…!」
 もはや目が正気ではない、復讐に狂った悪魔がそこにいた。
 だが、その様子を周りの人々は同情するような目で見ている。

「俺は
…っ!」

 このまま終わってしまうのか…


 5

 だが、状況は一変した。
「大勢で、一人の人をよってたかって…
それで英雄気取り?」
 女の人の声がした。
「覚悟してよね
…これは我々魔法使いに対しての…宣戦布告よ!」
「飛燕…
さん…?」
 突然、光が走り、俺の上に乗っていた男が転げ落ちた。
…死んでる!!!」
 誰かが叫んだ!
「あいつが殺した…
! 魔女だ…! 悪魔だ…!」
 どうなっているのかさっぱりわからないが、俺の上に乗っている人が魔法によって殺されたことだけはわかった。
 そして次の瞬間、俺は誰かに抱えられた。

「この人は
…我々にとって非常に大切な人間…、あなた達なんかに渡すわけにはいかないわ…じゃあサヨウナラ」
 目の前が、煙で真っ白になった。
 すごいスピードで、移動していることだけがわかった。

 気がついた。手を縛っていた縄を魔法で切って、起きあがり、辺りの様子を見た。
 暗い路地裏
…、そして…。
「気がついた
…? あなたはまだ魔力が低いから、逃げるときに使う魔法煙で気絶しちゃうのね…
「飛燕さん!?」
 いや、そこにいたのは飛燕さんではなかった。
「ガブリエル
…」
「覚えてくれたようね
…、司くん」
「…
っ!」
 俺は、こんな奴に助けられてしまったのか…


「どう? 実際に魔女狩りを体験した感想は」
「…
はっきり言って…すごく怖かった…
「そう
…でしょうね。わかった? あれが常人の本性なのよ。あなたを信じていた葵ちゃんって娘も、すごく驚いていたで しょ? きっと、あの娘はどうして良いのか分からなかったんだと思う…そして…出る答えは決まっている、信じていたのに…裏切られた…ってね」
「そんなはずはない! 俺は葵さんを裏切ってなんて
…!」
「常人にとって、魔法使いであることが悪なの、私の経験上
…いつの時代もそうよ。あなた…これからどうするの?」
「どうするって
…家に帰るさ、そしていつも通りに生活…」
「なんて出来ると思う? あんな事があったのに、学校に行けば当然酷い目に遭わされるだろうし、その前に有名になってしまった以上、外を歩くことも無理か もね」
「……」
「頼れる味方も…
いない」
「……」
「我々、ルシファーの仲間になりなさい、そうして常人に復讐するの。憎いでしょ? 自分は悪いことしていないのに、あいつらは魔法使いを勝手に悪い奴と判 断し、捕らえ
…殺そうとしている…。あんな奴らの中で生活しようなんて考えないで、魔法使いの味方になりなさいよ」
 ……一番痛いところをつかれた。
 前まではそんな気などさらさらなかったのに…
今では…ガブリエルの味方となって……。
「く…
頭が…
「…
悩むことはないわ、もし気持ちがはっきりとしないならば、これを飲みなさい。楽に身 を任せられるわ…」
 そう言うと、ガブリエルは小瓶に入った赤い液体を取り出した。
「それは
…シャドゥ・ブラッド…」
「あら? 知っているの?」
「その手にはのらない
…、俺を操る気だったな? ……帰る」
「あら? 命の恩人を無視して帰る気?」
「助けてもらったことには礼を言うが、俺の人生は俺が決める」
「――そう、ならば仕方ないか
…」
 突然、体が浮いたかと思うと、勢いよく壁にたたきつけられた。
「重圧
…、応用バージョンよ」
「く
…体が動かない…?」
「無理無理、本当はこんな事したくないけどね…
、先にこうやっておかないと戦闘狂のミカエルがあなたを殺しちゃうでしょ? あなた は貴重な人材なんだから…
 ガブリエルは俺の鼻をつまむと、小瓶のふたを開けた。
「気がついたときには、もう何もかも忘れているわ。大丈夫、心配しないで、私があなたを育て上げてみせる
…ルシファーに栄光を与える最強の闇魔法使いにね…!」
 ガブリエルが俺の口にシャドゥ・ブラッドを流し込もうとする。

 その時、炎の稲妻がガブリエルの背中に命中した。
「く
…この魔法は…飛燕!」
 路地の入り口には、飛燕さんが立っていた。

「正義のヒーローただいま参上ってところかしら? 飛燕」
「ガブリエル…
早くそこから離れなさい、さもないともう一発いくわよ…」
「へぇ
…、私とやる気なの? 聞いておくけど、私の強さを忘れたのかしら?」
…忘れてなんかいない、それに…私はもっと強い」
「ふふ…
その自信過剰意識…粉砕してあげる…」
「その言葉、そっくりそのまま返させてもらうわ」
 誰もいない路地裏で、戦闘のゴングが鳴った。

「炎の稲妻!」
「水柱(みずばしら)!」
 ガブリエルの足下から水の柱が上がると、炎の稲妻は打ち消されてしまった。
「爆裂!」
 今度は大爆発が起こり、水柱を分散させる。
 ガブリエルは爆発を避けると、手の上に球体の水を作り出し、それを飛燕さん目がけて飛ばした。
「その程度の魔法…
、かわせばおしまいよ」
「…
できるかしら?」
 水の球は弾け、その一滴一滴が猛スピードで飛燕さんに襲いかかった。
…っ!」
 飛燕さんは間一髪で全ての水滴をかわしたが、後ろのコンクリートの壁に無数の穴が空いていた。
「へぇ、上手くかわしたじゃない。八割がたの魔法使いは油断していて死ぬんだけどね。これが私の主力魔法
…水針(みずばり)」
 確かに危険な魔法だ、一滴一滴がとても小さいため相殺するのは難しいし、猛スピードで飛んでくるため、飛燕さん並みの反射能力がなくてはとてもかわせな い。

「じゃあ、どんどんいくね。水針!」
 再び、無数の針で攻撃を仕掛けた。
 何とかギリギリでかわしてはいるが、当たるのも時間の問題だ。

 ――助けなきゃ。

 しかし、体は重圧の魔法で固定されていて、動くことが出来ない。

…司、飛燕を助けようというの? 不可能よ、あなたの体は動かないし、たとえ動いた としてもあなたの力じゃ私は倒せない。あなたは弱いのよ、飛燕と同じようにね」
「違う! 私は弱くなんて
…!」
「黙ってなさい!」
 ガブリエルの右手から勢いよく水が発射され、飛燕さんに命中すると、飛燕さんは後ろの壁までとばされ、たたきつけられた。

「飛燕さんっ!」
「ね
…? 弱いでしょ? あなたは飛燕よりも弱いのよ? 私に勝てるわけがないでしょう に」
「……」
「やってみなければわからないって顔しているわね…
いいわ」

 突然、壁に貼り付けられていたからだが軽くなり、地面に降り立つことが出来た。

「やってみましょう。私と戦い、そして自分の無力さに気付くのよ…
!」

 つづく

<あとがき>

 テストをはさんでしまったおかげで、大分完成に時間がかかってしまいました。
 今回、新しく登場したのが、司の父親の再婚者。
 普通ならば、ここまで司を恨むことなんてないのでしょうが、すこし強引ですが、こんな形で司を恨ませるようにしてみました。
 そして、今回の物語のメインとなるのが“魔女狩り”です。
 当初の予定では、もっとたくさんの人間(魔法使いも常人も関係無しに)を捕まえていって次々と処刑していくという残酷なものでしたが、さすがにそれはや りすぎだろうという理由で、こうなりました。
 それから、一応正ヒロインは時雨です。
 飛燕と葵ばかり目立っていますが、時雨が第二の主人公ということをお忘れなく。
 次回は、司VSガブリエルを予定。
 果たして司はガブリエルに勝てるのでしょうか?

<おまけ 宗堂 明の第二の出会い>

前回のあらすじ:萌える男、宗堂 明の恋はまたもや失敗に終わった!

 その日、俺は風に吹かれていた。
 自分の愚かさを呪い、国語力のなさを呪った。
 だが、過去は変わらない…
そう…過去は…。

 気分転換に、司の家へ遊びに行った。
 そして呼び鈴を押そうとしたとき、横から女子に声をかけられた。
「司くんのお友達?」

 それは、第二の出会いだった。

 彼女の名前は霧崎葵。
 司の幼馴染みだとか
…許せん。(なにが)

 司の家で遊び終わった後、二人並んで帰り道を歩いた。
「明くん、家こっちなの?」
「はい、そうなのです」
 本当は全然反対方面なのだが、この機会を逃したらいつまた会えるかわからない。
 思いきって言ってしまおう。

「あのー…

「なんですか?」
「好きだあ!」

 時間が凍り付いた。

「え
…あの…」
 葵ちゃんが顔を赤くして慌てている。
「その
…どうするんでしょうか…、こういう場合…
 その様子が非常にキャワイイ。
…恥ずかしいね」
「ええ! 恥ずかしいですとも!」
「…
面白い人だね、でもまだ会って一日目だし…残念でした」
「残念
…?」
「うん」
「Σ( ̄Д ̄;)!!!」

「…
明くん?ムンクの“叫び”状態になってるよ?」
 心の中で大洪水。
 頭の中で大花火大会。

…明くん、別に嫌いだなんて言ってないから安心してよ」
「へ
…へぇ…そうですかぁ…こけこっこー…」
「落ち着いてよ…

「うりうりがうりうりにきてうりうりのこしうりうりかえる…

「何故早口言葉…

「いいんです
…もう…夕日に向かって…いつものように散りますから…」
「くす
…、本当に面白い人だね」
「え?」
「割と好きだな、そういう人。だって司くん硬いし
…、世の中ユーモアがある人の方が良いよね」
「じゃあ
…さっきの残念って…?」
「まだ無理って事」
「まだ
…ってことは…!」

 俺は飛び跳ねた。

 そうさ、生きていればこういうこともあるんだ!

 おお! 素晴らしい人生! 夕日も輝いている! 俺の心も輝いている…


…で、現在好感度は最高値を100とするといくらぐらいでしょうか?」
「なに
…好感度って…まあいいや、えーっとねぇ……17ぐらいかな?」

 世界が凍り付いた。
 心の中で大洪水。
 頭の中で大花火大会。

 めでたしめでたし(←ツッコミどころ)

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第九話・破滅