〜トキノアメ〜
ISM 作
<登場人物>
弥生 司…この物語の主人公で弥生家の養子、魔法使いである。
弥生 巌龍…司を施設から養子に迎えた男。
雪野 時雨…司のクラスに転校してきた少女、強力な魔力を持つため魔導組織ルシファーに狙われている。
宗堂 明…司の友人、常にハイテンション。今は時雨に萌え萌え。
飛燕…魔法使い、司に魔法について教える。今は時雨のボディーガード。
霧崎 葵…司の幼なじみ。
陽炎…司の前に現れた謎の人物。
ルシフェル…魔導組織ルシファーのボス、それ以外のことは不明。
<第六話 過去の傷>
1
その男は銀の髪、金色の瞳を持ち、服装は黒いTシャツにジーパン。
腕につけた銀色のブレスレットに太陽の光が反射してまぶしい。
見たところ、普通の若者にしか見えない。
だが彼は言った、俺に協力してくれないか、と。
「何故……、俺が協力する必要があるんだ? 俺は一般人だぞ?」
「隠すな、お前が魔法使いであることなんて魔法使い独特の気でわかっている。それに俺も魔法使いだ、安心しろ」
「……」
「しかし珍しいこともあるものだな、こんな町にここまで強力な魔力を持つ魔法使いがいるとは。お前、名はなんと言うんだ?」
「弥生司だ」
「では司で良いな? さあ早速ついてきてくれ」
「ちょっと待て……! 俺は協力するなんて一言も言っていないぞ! それにお前が誰だか全然わからない
し……信用するもんか!」
「……なるほど、それもそうだな。だが俺のことを教えるわけにはいかない……とりあえず悪いヤツではないということだけ言っておこう、これではダメかね?」
「ダメだ、信用できない」
「……仕方ないな、俺の名は陽炎」
「さっき聞いた」
「歳は19」
「どうでもいい」
「く……ならば仕方がない……」
そう言うと陽炎はジーパンのポケットからなにやら黒い手帳のようなものを出した。
黒い手帳の表紙には「キマイラ」とだけ書かれていた。
「どうだ? これでいいか?」
「全然よくない、なんだよキマイラって」
「なにっ! お前キマイラを知らないのか……!? 両親はどういう教育をした!」
「俺に両親はいない、母は死に、父は俺を捨てた」
「なに……、そうか……ならば今言おう、キマイラというのは……常人の世界でいう警察みたいなものだ。そして俺はその中で規則を破った魔法使いを
裁く仕事を受け持っている」
「へぇ……魔法使いにも規則なんてあるの」
「あるぞ? 例えば魔法使いの親は子供が満八歳になる前に魔法の使い方を練習させる義務がある……や、魔法使いは常人に危害を加えてはならない、とかな」
「……で、あなたは俺に何を手伝ってもらいたいんだ?」
「人捜しだよ、この付近に邪悪な魔法使いが潜伏しているという情報を聞きつけ、はるばるやってきたのだ」
「邪悪な魔法使いって……ルシファーか?」
「ルシファー! 何故司はルシファーを知っている?」
「俺は何度もルシファーと戦った、無理矢理連れ去られそうになって……」
「そうか……、私が探している人物はルシファーの一員だ。わかったか?」
「……ああ、一応」
「では早速行こう、日が暮れないうちにな」
現在時刻は三時半、夏のさなかなので日はなかなか暮れないだろう。
俺は陽炎の後ろをついて歩き続けた、陽炎はあっちに行ったりこっちに行ったりで行く場所に全く方向性がない、むしろぐるぐる回り続けている。
「陽炎……?」
「余計な口は聞くな……しかしこれではダメか……警戒されている。よし、俺はそこらで隠れている、司はこのあたりをぐるぐる回ってい
てくれ」
「囮!?」
「……まあ聞こえは悪いがそんなものかな、頼む」
「……仕方ないな」
陽炎はシャッと素早い身のこなしで姿を消した。
やれやれ、変なヤツに協力することになっちゃったな……。
俺は同じ道をぐるぐる回り続けた、もう一時間は歩き続けているだろう。
しかし一向に変化はない、このまま帰っちゃっても平気な感じだ。
「司くん」
後ろから声をかけられた、後ろを振り向くとそこには飛燕さんの姿があった。
「飛燕さん、どうしたんですか?」
「さっきから司くんを何度も見かけるからどうしたのかな? と思って声をかけてみたんだ」
「はぁ……そうですか、やっぱり変ですよね?」
「うん、変だよ」
飛燕さんは笑って答える。
「でもどうして同じところを行ったり来たりなんかしているの?」
「ちょっと訳がありまして」
「訳って?」
俺が陽炎のことを話そうと口を開きかけたとき飛燕さんは急に怖い顔をして後ろを振り向いた。
飛燕の前には猛スピードで突進してきた陽炎の姿があった。
「煉獄炎!」
「炎の稲妻!」
陽炎が放った魔法と飛燕さんが放った魔法が相殺しあう。
陽炎は高くジャンプして上から……、
「司! よけろ!」
と言った。
「ちょっと……陽炎! なにを……!」
「早くどけ! 司!」
「どいて! 司くん!」
「ちっ……」
陽炎は空中で頭の上に炎の玉を作り出していたがそれを消して下に下りてきた。
「司、どかないとお前まで巻き添えになるところだったぞ! せっかくの好機を逃したではないか!」
「司くん……! これはどういうこと?どうして陽炎と知り合いなの!?」
飛燕さんは混乱している、俺も混乱している。
「飛燕! 規則に則りお前を処分する!」
「陽炎! まさか探していた人って……飛燕さん!?」
「そうだ司、教えてやろう、この飛燕はシャドゥ・ブラッドを飲みルシファーと契約した、つまりルシファーの一員なのだ!」
「嘘だ!」
咄嗟に言葉が出た、飛燕さんがルシファーの一員のわけがない。飛燕さんは俺と一緒にウリエルやラファエルと戦ったし、俺を助けてくれた。
「嘘……じゃないわ司くん……」
飛燕さんが小さな声で言った。
「私はシャドゥ・ブラッドを確かに飲んだ……、ルシファーの一員よ……」
「そんな……」
そんなことは聞きたくなかった、嘘でも良いから飛燕さんには否定してもらいたかった。
「そう、飛燕の言うとおりだ。確かに彼女はシャドゥ・ブラッドを飲んだ、ルシファーの一員ならば我々キマイラも黙って見ているわけにはいかない、だからこ
こで俺は飛燕を処分しなければならない」
「待ってくれよ! 陽炎! 飛燕さんがルシファーの一員だとしても俺を助けてくれたんだ! だから殺さないでくれよ!」
「……悪いが、例えお前を助けたとしてもルシファーの一員という事実は変わらない。ルシ
ファーの一員ならば……罪人として裁く義務がある」
「……」
「ごめんなさい……司くん」
飛燕さんは猛スピードで走り去ってしまった。
それを陽炎は追うことはしなかった。
「……何故」
「司よ、飛燕は必ず処分する。今回お前のおかげでヤツの居所が分かった、感謝するぞ」
「感謝だって!? ふざけるな! 飛燕さんは俺の友達なんだ!」
「……そうかもしれない、しかし一度シャドゥ・ブラッドを飲んだ人間は元の人間には戻れな
い、死ぬまでルシフェルの言いなりなのだ。ならば処分しなければならない」
「無理矢理シャドゥ・ブラッドを飲まされたとしてもか?」
「……そうだ」
「だったら……俺ももう少しで……」
「司、その場合は死刑とまではいかない。様子を見て復帰できるならば復帰をさせることができる」
「じゃあ飛燕さんも……!」
「いや、飛燕は自分から進んでシャドゥ・ブラッドを受け入れた」
「……! 嘘だろ?」
「俺は嘘をつかない」
「……どうしてなんだ、俺は……飛燕さんを信じていたのに……」
「……」
もうすでに頭の中はごちゃごちゃでパニック状態だ。
俺に魔法を教えてくれて、さらに何度も助けてくれた飛燕さん。しかし飛燕さんはルシファーの一員であると陽炎は言う。
俺はこの事をとても信じることは出来ない――だが飛燕さんは真実だと言い切った。
――嘘だ。
聞きたい。
飛燕さんに会って、本当のことを確かめたい。
「司、時間をやる」
「なにを……」
「今から一時間、それだけ時間をやろう。それまで俺は飛燕と戦うようなマネはしない。飛燕に聞きたいことがあるのなら、一時間以内に聞いておけ」
「余計なお世話だ……っ!」
「後悔する事になるかもしれないぞ?」
「……っ!」
俺は走った。
飛燕さんを捜さなければならない、会って話をしたい。
だが、走っても走っても飛燕さんは見つからなかった。
一番飛燕さんがいそうな場所――公園。
しかしそこにも飛燕さんはいない。
いつもだったらベンチに座っていそうなのに……。
やはり警戒されているのか。
知らなかったとはいえ、自分を狙っている男とグルだったのだ。
今回も罠だと思いこんでいるのかもしれない。
――残り二十分。
足はもうガクガクだ、無理もない、ずっと全力で走り続けてきたのだ。
それでも俺は走っていた。
――残り十五分
もうダメだ。
公園に戻ってきて、ベンチに倒れ込んだ。
公園には誰もいない。
息がとてもあがっている、どこを捜しても見つからないだなんて……。
「司くん……」
「え……っ?」
ベンチの前には飛燕さんが立っていた。
2
「飛燕さんっ……、あの……俺は……」
「私を捜すためにずっと走っていたんでしょう? わかっているわ」
「俺は……飛燕さんに聞きたいことが……」
「うん――ずっと隠し通せるとは思っていなかったし……何でも聞いていいよ」
俺はベンチから起きあがった。
もう、聞きたいことが次から次へと頭の中に浮かんでくる。
「飛燕さん……飛燕さんがルシファーの一員だなんて嘘ですよね? それだけでも……否定してくれたら……」
「ううん、さっきも言ったけど嘘じゃない。私はシャドゥ・ブラッドを自ら進んで飲んでルシファーと契約したの」
「……なんで……そんなことをしたんだ? 飛燕さんぐらい賢い人ならば……ルシファーが悪いことをしているぐらいわかるでしょ?」
「……私は小さい頃、両親を失ったわ。目の前で銃を突きつけられ、頭を打ち抜かれた両親
を今でも覚えている……」
「!!」
「私が小さい頃住んでいた村は、とてもいい村だったわ。周りの人も温かかったし私も可愛がられてきた。それに魔法使いの人たちもたくさんいて常人と共存も
出来ていたわ……。でも、ある日、大地震が起きてたくさんの人が死んだの。住む家を無くした人もたく
さんいて、ちょうど冬だったし凍死する人も多かった……。それを村の人たちは私たち魔法使いが招いたことだとして魔女狩りを行ったの」
「魔女狩り……」
「私の魔法使いの友達も、常人の友達も、全員連れて行かれ
て銃殺された。そして私の父も母も……」
言葉が出ない、本で読んだ魔女狩り、その被害者がこんなに近くにいただなんて……。
「父の最後の言葉は……“逃げろ”だったわ。私は捕まる前に逃げ出した……でも追われて、足を撃たれ、もうダメかと思ったとき目の前に魔法使いが現れて私を助
けてくれたの……それがルシファーの一員で、私は常人に復讐するというルシファーの考え方に共感して
契約をしたの」
「飛燕さん……そんなことがあっただなんて……」
俺は飛燕さんに比べたら幸せな方だ、忌み嫌われていただけとはレベルが違う。
実際に俺が飛燕さんだったらルシファーと契約をしているかもしれない。
「ルシファーでは毎日常人への復讐心だけで修行をしてどんどんいろいろな魔法を拾得していったわ、そしてある日……ついに常人を殺したの」
「ころ……した……?」
「その時に横にいた殺した男の娘と目があった、その娘の目を見て私はやっと気付いたわ。私も私の両親を殺した人と同じ事をしているんだって……。それで、私はルシファーを抜け出したわ」
「抜け出した……じゃあもう飛燕さんはルシファーの一員じゃない! 陽炎に狙われる理由なんて無いん
だ!」
「いいえ…、ルシファーに入った者は死ぬまでルシファー。それに私には常人を殺したっていう前科まである、もうダメなの」
「ダメって……まさか飛燕さん……」
飛燕さんは後ろを振り向いた。
入り口には陽炎が立っていた。
「決めたわ、司くん。私はここで罰を受ける、いままで逃げっぱなしだったけど……それで、罪から開放されることはなかった」
陽炎がゆっくりと歩いて向かってくる。
「司くん……あなたに私の閉ざされた過去を話したとき……とてもすっきりしたわ。今なら恐れないで罰を受け入れることが出来る」
「いやだ……待ってよ飛燕さん……!」
止めたいけれど、何故か立ち上がることが出来ない。
上に重たい物が乗っかっている感じだ。
「話はどうやら済んだようだな、司」
「陽炎、私はもう抵抗しないわ、好きにして」
「……そうか、わかった」
そう言うと、陽炎は手を上に掲げ、魔力を集め始めた。
「待ってくれよ! 陽炎! 飛燕さんは悪くない……っ!」
必死に立とうと体に力を入れるが全然立つことが出来ない。
「無理よ司くん、重圧の魔法をかけたから……」
「重圧って……ちょっと飛燕さん……!」
「なにか言いたいことはあるか?」
陽炎の手の上には魔力の玉が乗っかっている。
「ないわ――待って、一つだけある」
「……早くしろ」
「司くん、よく聞いて。私はこうしてルシファーに入って後悔した人生を送った……だからあなたは何があっても人を恨まないで……、それから……時雨ちゃんとは仲良くね」
「ひ……」
目から大量に涙がこぼれてくる。
「いいわ、陽炎いつでもどうぞ」
「天罰!」
陽炎が魔力の玉を飛燕さんの頭上に放り投げるとそれは形を変え黒い雲へとなった。
「己の悪行、雷に撃たれ悔い改めろ……」
「飛燕さんっ!!!」
黒い雲から雷が今にも飛燕さんに落ちるというところで、雲は四散した。
「!?」
陽炎が驚いている。
雷が落ちる直前、咄嗟に俺は旋風を放っていたのだ。
「何の真似だ、司……」
「……」
「今の行為は明らかに業務執行妨害だ、何故邪魔をした?」
「俺は……飛燕さんが死ぬのを見たくない……」
「何? まだそんなことを……」
「飛燕さんは改心している、別に悪いヤツなんかじゃない!」
「たとえ改心したとしても、シャドゥ・ブラッドを受け入れた者、いつ反転衝動が起こるかわからないだろ!」
「それでも、飛燕さんには生きていてもらいたいんだ……。なんだか死んでもらったらとても困る気がする……」
「司くん!」
「……! 飛燕さん?」
「罰を受けるというのは私が受け入れたこと……、なんであなたは陽炎を止めたの? 私なんてもう死んでしまったって構わない、そ
れで今までの罪から開放されるなら……死なんて怖くない……」
「嘘だよ」
「え……?」
「飛燕さんも怖いハズだよ……、だって……さっきから震えているじゃないか」
「死に直面して恐怖がない者などいるわけがない、俺は何十の者を裁いてきた。全員……必ず俺が天罰を放つ瞬間は恐怖で震え上がる。むしろ震え上がらない方がおかしい」
陽炎は金色の瞳でこっちを見つめている。
その瞳は恐ろしいほど冷たかった。
「さっき――死ぬ直前、私は思い出したくない光景を思い出した」
「思い出したくない光景?」
「ずっと忘れていたかった光景、司くんには話したけど……人を殺したときの光景――男は額を私の炎の稲妻で貫かれ一瞬で絶命した。そしてその
様子をただ呆然としか見ていることが出来なかったその男の娘――その娘が目で心に訴えてくるの“卑怯者”って――」
飛燕さんは頭を押さえて座り込んでしまった。
「私……死にたくない……」
飛燕さんの目から涙があふれてくる……。
しばらく沈黙が流れた――
そして、その沈黙を最初に破ったのは陽炎だった。
「生きろ飛燕」
「……?」
「お前が死んだらその娘はどうなる? 飛燕――お前と同じ人生をたどることになる。自分の罪を悔いているなら行動で表せ、悔い改め、その娘に一生をかけて
償え」
「陽炎……」
「お前がやるべき事は死ぬことではない――それが……お前がやるべきことだ」
陽炎は後ろを振り向くと公園の外に向かった歩き出した。
それを俺は走って追った。
「陽炎……飛燕さんを許してやってくれてありがとう……」
「別に許したわけではない――ただここで死なさせるわけにはいかないと思った。しかし不思議だな……、俺は飛燕を五年間追い続けていた。これでようやく決着がつけられると思ったのだが……」
「随分長いつきあいなんだな」
「ああ……、俺がキマイラに入った時――それはもう俺が十四の若造の頃か? 最初の仕事が俺の
先輩についていって飛燕を捕らえ、裁くという仕事だった。それからまさか五年間も追い続けることになろうとは思ってもいなかった……。何度飛燕に逃げられて悔しがったことか……。しかし、帰ったら大変だな……殺人犯をまた逃がしたなんて上司に知られたら……こっぴどく叱られるのだろうな……」
「陽炎、結構いい人だな」
「いい人……?」
「ああ」
「フ……そうか……。そうだ司、お前に一つ聞きたいことがあった、どうやって飛燕の重圧から抜け出し
た?」
「え…? 咄嗟のことだからわからないけど……とにかく体が自然に動いたんです」
「なるほどな……」
陽炎は少し考え込んだ後、
「お前はもの凄く強力な魔法使いになる、きっとだ、俺が保証する。大きくなったら……キマイラに入らないか?」
「遠慮しておきます」
「何故だ?」
「だって疲れそうだし、俺……鬼ごっこは得意じゃないんでね」
思わず二人で笑い出してしまった。
後ろでは飛燕さんが不思議そうに俺達二人を眺めている。
「それではさらばだ、またいずれ会うことになるかもしれぬ」
「ああ」
そう言うと陽炎は、もの凄いスピードで去っていった。
「司くん」
名前を呼ばれて振り向いた、飛燕さんがいつもの笑顔でこっちを向いている。
「なんですか? 飛燕さん」
「ありがとう……」
「え……?」
飛燕さんはそっと俺の肩に抱きついた。
俺の頬は夕日に染まる空にも負けないぐらい赤くなっていた。
3
最後のテストが帰ってきた。
教科は地理、とても人には見せられない点数。
「おーっし! 司! 今までの合計点数で勝負だ!」
明はやけに張り切っている。
「まずはお前からだ!」
「数学I77、数学A65、現代国語55、古典61、英文法48、英会話58、科学45、生物42、世界史32、地理21……」
「だんだん元気なくなっているな!」
「ほっとけ……お前は?」
「聞いて驚け! 現国30てーん!」
「終わっているな」
「うっさい! 最後まで黙って聞け!」
「数学A12! 数学I25!」
「圧勝かな?」
「まだまだ! 科学98! 生物85!」
「何!? お前そんなに頭よかったっけ!?」
「ははは! そして古典99! 英文法78! 英会話91! 世界史98! 地理100! 合計点数は……」
「もういいよ、お前の勝ちだ」
「え? なんで? わからないじゃないか」
「それぐらい頭で考えてわかるだろ!」
「悪いね、俺文系なんだ!」
そんなこと初めて聞いた、つーか文系なら現代国語をもう少しやっておけと言いたい。
「じゃあ時雨ちゃんとラブラブ作戦パート4に移行しますか!」
「ちょっと待て」
「なに? まだ未練があるのか?」
「パート3はどこ行った、その前にパート2は何をやった?」
「細かいことは気にするな! よぉーし! 頑張るぞぉ!」
突然張り切り出す明、まあいつものことなんだけど。
「ところで司よ? お前いくらなんでも二または危険だぜ?」
「ふたまた?」
「そう、俺は知ってるんぜぇ……お前が公園で……」
「ちょっと待て……!」
「他の高校の娘と一緒に待ち合わせして学校に来ていることを!」
なーんだ、そっちか。
明の言っているのは葵さんの方だろう。
「司さん、帰りませんか?」
放課後になり、突然雪野が話しかけてきた。
「ん……まあそれは当たり前だから良いけど?」
「じゃあ早速行きましょ……」
「待てーい!」
ズザァァァァッという効果音をたてながら俺達の間に割り込んでくる明。
「たまには気分を変えて俺と一緒に帰りません? 一人では危険ですし!」
お前の方が危険だ。
「いえ……あの……宗堂くん?」
「大丈夫! 時雨ちゃんはこの私が責任を持ってお守りします!」
いつからお前の一人称は私(わたくし)になった?
クルッと向きを変えてこっちを睨む明。
「テストで勝ったんだから……今日はダメ!」
「ううっ……じゃあせめて三人で……」
「ダメ!」
仕方ない、今日はここで退散しよう。
「じゃあ雪野さん……悪いけど明とでも平気?」
「いえ……別に悪くはないのですが……司さんはどうするんですか?」
「ちょっとね……先生に呼ばれたから遅くなると思うし……先帰っていていいよ!」
ナーイス司! と明が目で訴えてきた。
「じゃあ……宗堂くんよろしくお願いします」
「はいはい、私にお任せあれ!」
そして二人は教室を出ていってしまった。
それは何とも異様な光景、とても不釣り合いな二人。
……ってこれは妬(ねた)んでいるだけか。
一人でいつもと違う道を歩いていく俺。
そういえば前はこの道を歩いて帰っていたっけ……。
確かこの辺で雪野がチンピラにからまれていた、この通りは今も人気が無く危ない。
先生は通るのを避けることと言っているが通ればこれ以上ない近道なのだから通らない手はない。
……が、通らなければよかったと後悔することになった。
「ふはは! ひさしぶりなのですね!」
「復讐の時はきたぁ!」
「私のパワーアップした魔法、見せて差し上げましょう」
そこにいたのはウリエルの部下、ボング、クルド、リードの三人組だった。
「ウリエル様がお亡くなりになり……私たちは生きる希望を失った……」
「ウリエル様の出世だけが唯一俺達の心の支え!」
「だけどお前がウリエル様をやっつけちゃったんですよね」
「許さん!」
クルドが真っ先に飛び出してきた。
「俺に触れてみな! バチバチ痺れるぜ!」
よく見るとクルドの体の周りには電気がたまっている、言われなければ気がつかなかったに違いない。
「そこまで言われたら、触れるわけがないだろ!」
旋風を放つ……が旋風はもう一つの旋風によって相殺された。
「……! リード!?」
「そう……私は旋風をマスターしたのだ!」
そして俺はクルドの体当たりを食らった。体全体に電流が走り、倒れてしまった。
「ちっ……」
「ははは、その電流は強烈だからな、もうお前は立てないぞ!」
言うとおりだ、確かに立ち上がることが出来ない。
「そしてボング! お前の必殺技を見せてやれ!」
見るとボングが魔力を腕に溜めている。
「しまった…! こいつは確か!」
「そう! 魔法は強いけど放つまでに時間がかかる僕ちん! だけど二人が時間稼ぎをしてくれたから放てるよぉー!」
もの凄い光が集まっていく……それを俺は止めることも出来ない。
「殺っちまえ! ボング!」
「波動!」
光の波が押し寄せてくる、あれに当たったらひとたまりもない。
逃げたいけれど体が動かない、相殺しようにも魔法が使えない。
「死ねぇ!」
いや、ここで死ぬわけにはいかない。
こんな奴らに負けていたら、雪野を守る事なんて出来るわけがない。
気がついたら俺は魔法を放っていた。
目の前にに空気が渦を作って取り巻いている、波動はその渦にはじかれ消えていった。
「なにぃぃっ! こいつ……こんな高度な魔法までぇぇっ!」
クルドの声だけが聞こえる、クルドの姿はその渦に阻まれ見えない。
体の痺れの感覚が無くなっているので立ち上がった。
見るとその渦は俺の目線よりも少し低いぐらい、おかげで三人の様子がすぐ分かった。
「そ、それは……竜巻……」
「竜巻?」
どうやら俺が放った魔法は竜巻というらしい、よく見れば小さいが確かに竜巻の形をしている。
「やめろっ……それを放つな!」
リードがもの凄くあわてている、どうやら本当に強力な魔法らしい。
「そんな事言われてもさぁ……初めてだからどうやって使えばいいのか……さっぱりだ」
「ふふふ! その竜巻は自分の意志で自在に操れるなんて事は知らないようだな!」
「馬鹿!」
クルドが馬鹿で助かった、頭の中で竜巻に奴らを襲わせるよう命令する。
次の瞬間、竜巻が動き出した。
道路を削りながらどんどん三人の方に向かっていき……。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」
という三人分の断末魔だけが残った。
4
竜巻は消えていった。
三人の姿はない。
死んだか逃げたかのどっちかだが、三人が立っていたところにリードのメガネが落ちていたのと、先ほどの叫び声からすると、恐らく竜巻に巻き込まれたのだ
ろうと実感した。
俺は今とても恐ろしい気分だ、三人を一瞬にして殺した。
そんなことが簡単に出来た。
この能力、他には役立たない殺人の能力。
扱えるというだけで周りから、邪魔者扱いされて迫害される……。
魔法使いなんて良いことは一つもない。
頭が痛い、吐き気がする。
思わず頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
「素晴らしい」
後ろで声がした。
驚いて後ろを振り向くと、そこには――赤いマント、長い紺色の髪、そして青い瞳を持つ女性……。
「誰だっ……」
「ルシフェル様の部下ガブリエルと言えばいいかしら?」
「ガブリエル……!」
ガブリエル、またしても大天使の一人の名前。
ラファエル、ウリエルと肩を並べるほどの実力者なのだろうか。
「あらあら、そんな怖い目をしなくてもいいじゃない」
「何をしに来た……」
「一度ね、ラファエルとウリエルを倒した魔法使いと会ってみたくなって。それであなたの気さえよければルシファーに入ってもらおうって……」
「ふざけるな! 何度言われたって俺はルシファーなんかには入らない……っ!」
「そう? でもルシファーに結構いい場所は空いているわよ、あなたぐらいの実力なら四天王にも入れるんじゃないかしら?」
「四天王?」
「そう、ちょうど二人殺されちゃったから……二人分空いているわよ」
「だからなんだ、俺は入らないって言っているだろ」
「えーっ……せっかくルシフェル様に頼んで取っておいてもらっているのにな〜。あなたと時雨ちゃ
んの分」
……!
心臓が大きくはねた。
「まさか……雪野に何か……」
「ううん、まだ何もしていないわ、さっき見に行ったけど男の子と楽しそうに歩いていたもの、邪魔しちゃ悪いかなぁって……ね」
よかった――、これで雪野の身に何かあっていたら俺はどうなってしまっていたのかわからない。
「それよりも、さっきから入りたいって感じじゃないわよね? どうしてそんなにルシファーを嫌うの?」
「当然だ、俺は人を殺したいだなんて思っていない。常人に復讐をして魔法使いの理想郷を作るだなんて馬鹿げた話についていく気なんてさらさらないんだ」
「でもね、私には未来視能力があってね……視えるのよ……あなたが常人達の手によって酷い目に遭わされるのが……」
「嘘だ」
「本当よ? 今までだってそうだったでしょ? 今の学校で上手くやっているのは誰もあなたが魔法使いだということを知らないから……あなたが今仲のよい宗堂って人もあなたが魔法使いだということを知ったらどうなる
かしら……?」
「わからない……」
「でしょ? 今まではちょっとの暴力と罵声で済んだけど、もう高校生だしねぇ……どうなるかな〜?」
「黙れ」
「怖いんでしょ……」
「くっ……」
俺は一歩後ろに下がった。
「もう消えてくれ……目障りだ」
掌に魔力を集める。
「あら? 攻撃? それとも脅し?」
「さぁ…、俺にはわからない、それ以上貴様が口を動かすならば、意志とは反対にこの魔法が貴様を貫くかもしれない……」
「……怖い坊やね。いいわ、今日は退いてあげましょう。でも……あきらめた訳じゃないからね……」
ガブリエルはひゅっと素早い動きで消えていった。
ガブリエルの言葉はとても巧みに俺の心をついてきた。
あのまま言葉をかけられていたら、気が変になってしまっていたかもしれない。
とにかく……飛燕さんに相談するなり、家に帰って休むなり……しよう。
そう思い立ち、ふらふらとした足取りで俺は家まで帰り着いた。
「ただいまー」
「ああ、お帰りなさいませ司様」
「……? どうかしたの?」
今日の使用人の様子はおかしい、なにやら慌てている。
「いえ……ただ巌龍様が急にお帰りになり、居間をメチャメチャになされて……」
「父上が?」
俺は父上の部屋へ走った。
コンコン……。
「誰だ」
「司です、父上」
「……入れ」
父上の部屋に入った、父上はソファーに腰を預けていた。
久しぶりに見る父上の顔は、昔見た顔とは少し違うように見えた。
「父上……どうかなされたのですか?」
「ん?」
「帰ってくるなり、物を壊すなんて……よほど疲れているのでは?」
「なんだ司、いつからお前は私にそのような口を利くようになった」
「いえ……ただ……」
「お前は黙って私に従えばいい、二度と私に意見などするな!!!」
俺は部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
横で俺の部屋を掃除していてくれた使用人が驚いて話しかけてきた。
「司様、大丈夫ですか!?」
「大丈夫……ちょっと疲れただけさ」
「はぁ……そうですか、驚かせないでください」
「悪いね……ところで父上だけど……」
「はい、もの凄く機嫌が悪いようです」
「仕事がうまくいっていないのかな?」
「私が巌龍様に聞いたことでは、取引先とまた契約破棄だそうで……。無能な部下ばかりで本当に疲れる……と」
「契約破棄かぁ…それは大変だね、でも昔もそんなことが何回か無かったっけ? でも以前は物なんか壊しはしなかったけど……」
「きっと、相当ストレスがたまっておられるのでしょう……」
そして使用人は部屋から出ていった。
父上……一体どうしてしまったんだ……。
昔は優しかった父上だが、本当にここ最近仕事に出ているか屋敷で怒っているかのどちらかだ。
夕食は父上のご機嫌とり用の食事だった。
父上が好きな食事、そしてとても高級そうなワインを惜しみなく開けている。
だが、父上は一言も話さず、厳しい顔つきで黙々と食事を口に運んでいる。
俺も食堂に入ろうとした……がその時父上はもの凄い形相で、
「来るな! 司! 貴様がいると食事が不味くなる! 邪魔だ! 失せろ!」
……と、もの凄い暴言を吐かれた。
「司様……どうかお気を悪くなさらずに……」
使用人は小声で俺に気を遣ってくれる。
「いや……いいよ、居間で待っているから……」
居間で俺は本を読んで父上が食事を終わるのを待った。
四十分くらいした後、食道から父上の声がした。
「今日の食事はなかなかの味だったぞ」
どうやら機嫌も戻ったらしい。だが、父上は居間に来て俺の顔を見るなり、
「司! 私の家の家具に触れるな! ……いや、私にその面を見せるな! 外に出ていけ! 消えろ!」
……と、まで言った。
こりゃあ大変機嫌が悪いご様子、いや、俺が気に入らないご様子。
「仕方ないね……今日は中庭で寝るよ」
「司様……」
俺は外に出た。
庭では虫の声がする。
中庭のベンチに腰掛け、一息ついた。
曇っていて星は見えない。
これは一雨降りそうだ。
父上は施設で俺を一目見るなり、俺を養子にした。
それ以来、大切に大切に育ててくれたのだ。
生活は決して楽ではなかったが、それでも学校に行かせてくれて、勉強までさせてくれた。
ずっと俺は父上に感謝をしている。
だが、この間から父上の様子がおかしい。
俺に怒っているのは、単に仕事がうまくいっていないだけではない気がする。
むしろ、その理由に気がつかない俺に対して怒っているような……そんな感じだ。
……気がつけばポツポツと雨が降ってきていた。
体はすっかり濡れてしまっている。
「司様」
使用人が迎えに来てくれた。
「巌龍様はお休みになられております、気付かれないように裏口から入ってください」
部屋に戻って服を着替え、今度こそほっと一息をついた。
寝間着に着替え、そしてベッドに横たわると俺はそのまま眠りについてしまうのだった……。
5
「おはよう!」
朝、公園で葵さんと出会った。
「やあ、おはよう」
「どうしたの? 疲れているみたいだけど」
「昨日家が荒れてね、大変だったんだ」
「ふぅん……そうなの……」
「まあいいや、学校行こう!」
そしてバスに乗った。
一番後ろの座席がちょうどよく空いていたので二人で座った。
「そーだ、今度一緒に映画でも行かない?」
「いいけど……どうしたの? 司くん」
「昨日さ、昔のことを思い出していたら、俺ってずっと葵さんに助けられてきたのにその恩返しなんて全然していないからさ、せめて奢ろうかなって」
「本当? やった! ただで映画が見られる! でもさ、司くんも私のこと助けてくれたじゃない」
「え? そんなことあったっけ?」
「うん、小学校……五年生の頃かな、私のお父さんが亡くなったとき……」
「……」
「みんな、私に気を遣っているのかわからないけど、しばらく誰も私に話しかけてなんかくれなかった……でもそんなとき司くんだけ私に話しかけてくれたじゃない」
「……そんなことあったっけ?」
「うん……、確か……『人は必ずいつかは死ぬんだ、だけど亡くなったお父さんの代わりに葵さんが頑張っ
て明るく生きていかないとだめだよ、そうすれば葵さんのお父さんも安心できるんじゃないかな?』って……言ってくれた……」
「……俺そんな事言ったの? ごめんね、結構きつかったでしょ」
「ううん……、言葉の意味はよく理解していなかった……。そのときはただ声をかけてくれてうれしかったって気持ちでいっぱいだったんだ。だ
からね、別に無理して恩返ししてくれなくてもいいんだよ」
「葵さん……」
「でも言っちゃったことには責任持ってよね。私最近流行っている“ラストニンジャ”観たいんだ〜、今度の日曜でいい?」
「え……あ……いいよ」
「やった! あっ、もう下りる停留所だ、じゃあね! 楽しみにしているから!」
嬉しそうにステップを駆け下りていく葵さん。
言葉をかけてくれる……確かにそれが一番嬉しいかもしれない。
無視されているのは辛い。
だけど、俺が葵さんに言った言葉……もう少しまともなセリフはなかったのか?
さて、俺も学校の校門をくぐり、教室についた。
途端、とてつもなく重苦しいオーラに教室が包まれていることに気がついた。
すさまじい重圧、教室の隅に顔を向けてみると……。
そのオーラの発生源が見つかった。
「明……おはよう」
明はゆっくりとこっちを見た、その目はまるで死んだ魚のように生気がない。
「おーはーよ……う……」
「どうした!? 明!? しっかりしろ!」
「ううう……、俺はもうおしまいだぁ……」
「何があったんだ!? おい! 明!」
ガラッと、教室の扉が開いて雪野が入ってきた。
「あら、おはようございます司さん……と」
雪野は明(の方)をじーっと見て、ようやく誰だか判別できたのか、
「おはようございます、宗堂くん」
と言った。
そう言い終わるや否や、明は謎の叫び声をあげて廊下へ走り去っていってしまった。
「……どうかしたのか? アイツ」
「え……わかりませんが……」
「そういえば昨日雪野さん、明と一緒に帰ったよね?」
「はい……その時は普通でしたが……、あっ! そういえば別れるとき、なんか猛スピードで去っていきました、確か……夕日のバカヤロー……とか叫んでいました」
ああ……原因は彼女に違いない。
超天然ボケのおかげで彼女自身自覚はないようだが。
「明……一体何がどうしたんだ……」
それはきっと永遠に謎のままである。
「そういえば司さん? もうすぐ夏休みですね」
「ん……そういえばそうか……、その前に修学旅行があるけどね」
「夏休み何か予定あります?」
「特にないけど?」
「なら……夏休み中はずっと暇ですか?」
「ずっとじゃないけど……だいたい暇だね」
「じゃあ今度遊びに行きません?」
「遊びに?」
「はい! 宗堂くんや飛燕さんを誘って遊園地にでも行きませんか?」
その組み合わせは何となく危険な気もするが、あまりにも楽しそうなので、
「ああ、それいいね」
とあっさりと答えてしまった。
放課後、いつも通り雪野を家まで送った。
そしてその帰りのバスの中で葵さんとばったりと出会った。
「あれ? おんなじ時間に乗るなんて珍しいね」
「そーだな」
「ねね、司くんさ、映画のことだけど……」
「ん?」
「映画じゃなくて……もっと別なところじゃダメかな?」
「別なところって?」
「あのさ……今新しくオ−プンしてとても流行っている遊園地があるんだけど、そっちにしない?」
「遊園地!」
思わず大声を上げてしまった。
「……どうしたの?」
「いや……別に……ただうちのクラスの友人とも遊園地に行くって言ったから、ひょっとして同じところではないかと……」
「きっと同じだよ、この辺に遊園地なんてあそこしかないもん」
同じ遊園地に二度行くのか……それはちょっと辛いかもしれない……。
「じゃあさ、私も司くんの学校の友達と一緒に行っちゃダメかな?」
「俺はいいけど……葵さんはいいの?」
「私は大丈夫、結構初めての人とも話せるから。女の子はいる?」
「ああ、多分二人……じゃあ今度紹介するよ」
「うん! よろしく!」
約一名とても紹介したくない(というか友人と思われたくない)人物がいるがまあ仕方ないだろう。
「あっ、ついたよ」
「ああ……気がつかなかった」
そして俺達はバスを降りた。
公園まで歩いていき、そこで別れようとしたとき公園に飛燕さんの姿があった。
「あれ?」
飛燕さんもこっちに気がついたらしく歩いて向かってきた。
「司くん、今帰り?」
「ああ……そうだちょうどいい。葵さん、こちらは友人の飛燕さん。んで飛燕さん、彼女は前の
学校で一緒だった葵さん」
「葵ちゃん? よろしく――」
ふと、空気が凍り付いたような気がした。
葵さんはとても恐ろしい目をしている。
飛燕さんもそれにつられて何かに気がついたようで、また怖い顔をしている。
この二人は会わせてはならなかった。
俺はこのときそんな予感がした、しかしもう――時はすでに遅かった。
つづく
<あとがき>
なんだか小説の方向性が変わってきたような気がします。
……が、くれぐれもお忘れなく、この小説はファンタジーです。
決して学園恋愛モノではありません。
んで、どうやら司は相当の“女たらし”になってしまいました。
これでいいのか主人公! いや主人公だからいいのか?
巌龍はどんどん性格変わっているし、ガブリエルの口調は飛燕と似ちゃうし、時雨は天然ボケで筆者をも狂わせるし、葵は結構強引だし、飛燕は大胆だし、明
はバカ万歳だし……、最近キャラが私の手を離れて独り立ちしすぎています、困った……。
<おまけ 宗堂 明の告白>
前回に引き続いてトキノアメのトリを飾るのはこの俺! 宗堂 明!
今回はちょっと切ない話なのだ!
俺は時雨ちゃんと一緒に商店街を歩いていた……、時雨ちゃんはいつどこで見ても可憐で……清楚で……そしてなによりもキャワイイ。
そう、俺は時雨ちゃんに鯉をしたのだ。(注 恋が鯉なのは故意です、ああ寒っ)
そしてその思いを実らせて早一ヶ月、ついにこの日! 俺は告白する!
朝起きたとき、ちゃんと歯を磨き、顔を洗い、身だしなみを整え……そして全力で登校!
学校に着いたときはもう汗だくでしたね、ええ。
とにかく、何と言うかまでちゃんと考えてきた! さあ勇気を振り絞って!
「あの……宗堂くん?」
「ひゃ……はい!」
「暑くないですか?」
「あ……暑いですねぇ……、今日は本当に暑いですよ! ははは……」
「別に私は暑くないですけど」
ドガッ。
なら言わないでください。
「そ……そう言えば時雨さん……?」
「はい、なんですか?」
「す……好きな男性(ひと)っています?」
「好きな……人……ですか? いますよ」
「そ……それはどんな人なので?」
「そうですねー……まず絶対に時間は守るんです」
「ΣΣ( ̄口 ̄||)←遅刻回数現在31回」
「あとは……とてもさわやかな人です、私汗っぽい人は嫌いですから」
「Σ( ̄Д ̄;)!!!←全身汗だく」
「あとはですねー……」
「ゆ……」
「ゆ?」
「夕日のバカやろぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「あっ、宗堂くん!」
俺は走った、もう告白する気もなくなった、時雨ちゃんには好きな人がいる……しかも俺ではない……。
畜生! やはり俺は失恋するっていうオチなのかぁぁぁぁ!
いくらストーリーを面白くするためとはいえ酷すぎるぞ筆者ぁぁぁぁぁ!
……スマン(←筆者)
一方時雨は……。
「あっ……いきなり走り出すなんて……どうしたんでしょうか……? ……ああ、きっと体力作りですね! バスケはスタミナが重要ですから! でも
私が好きな人の事聞くなんておかしな人ですねー……、私はやっぱりお父さんが好きです!」
つづかない
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