〜トキノアメ〜
ISM 作
<登場人物>
弥生 司…この物語の主人公で弥生家の養子、不思議な能力を持つ。
弥生 巌龍…司を施設から養子に迎えた男。
<第一話 転校生>
1
俺は高校一年生になった。
父上(巌龍のこと、巌龍は俺に自分を父上と呼ばせた)は俺を共学の私立高校へ行かせてくれた。
父上の家は代々からいい家柄で、とても大きな屋敷を持っていた。貧乏な家からうって変わって大富豪の家である。
だからといって、生活が楽か、と言われてもそうではなかった。
まず、屋敷にやってきたばかりの俺に山のような参考書(「できる中学受験!」「これで完璧小学生の勉強」「目指せ難関私立」etc……)をくれた。
それから毎日、学校から帰ってきては寝るまで勉強という生活が続いたのだった。まあ、おかげで勉強はできるようになったのだが。
屋敷は和風である。
家には、父上と召使いが5人、そして俺がいる。
父上には妻がいたのだが子宝にも恵まれず、俺が養子に来る数年前、先に逝かれたらしい。
俺の不思議な能力を父上は理解してくれた。
数年前、家に飾ってあった屏風(びょうぶ)を破壊してしまったときも、大切なお客様のヅラを吹き飛ばしてしまったときも決して俺を叱ったりするようなこ
とはなかった。(後者の時には心臓が止まる思いだったが)
ある日、父上は俺に瞑想を奨めた。
騙されるかのように始めてみたが、続けていくうちに、よほどのことがない限りその力が暴発してしまうようなことはなくなった。
さて、俺の通っている学校はバスで五十分の距離にある。とんでもないエリート校というわけではないがそれなりのランクの高校だ。
いつものように学校へバスで向かい、始業十五分前について自分の席に座る。席は半分ぐらい埋まっているといったような状況、いつもと同じ光景だ。
廊下では女子生徒が集まって話し込んでいる、これもいつもと同じ光景。
学校では一番の仲良しである宗堂明(しゅうどう あきら)が話しかけてくる、なんてことのない無駄話だ、まったくいつもと同じ。
だが、今日に限っては何か違和感を感じていた。
人間何かいつもと違うことがあると猛烈に違和感を感じてしまう生物らしい。
確かに他の生徒もいつもとは微妙に違った雰囲気だ。
その視線の先はみな決まって同じ位置である。その先を目で追ってみると…。
机と椅子が一つずつ余分にある。
これはうちのクラスに誰かが転校してくると考えられる。
周りでは可愛いい女のコだったらいいとか、格好いい方だったらいいとか、とにかくそんな話で盛り上がっているみたいだ。
なんでその程度のことで盛り上がれるのだろうねぇ…。
机に寝そべる俺。
キーンコーンカーンコーン
始業の鐘が鳴る…と同時に担任の先生が教室に入ってくる。
先生も何かを隠すようにどことなくそわそわしている。
転校生が来るなんてバレバレなんだからもう少し普通にしたらいいのに。
「さて――今日からこのクラスに新しい仲間が増える」
おお、これこそ正に決まり文句。
「さあ、入ってきてくれ」
……と、入ってきたのは物静かな表情の少女だった。
緊張しているのか表情が硬い――まあそれも当然なんだけど……。
なにせ後ろを振り向くと(俺は一番前の席)クラスのオトコどもが目をぎらぎらさせて彼女を見つめているのだ。同じ男として情けない。
「さて、自己紹介をしてもらおうか」
と担任が言うと
彼女はたどたどしい口調で
「雪野 時雨(ゆきの しぐれ)です…」
とただそれだけ言った。
時雨――
これはまた随分と寒そうな名前だ。
きっと冬生まれだろう。
「それじゃあ雪野、弥生の隣の席に座ってくれ」
えっ! 俺の隣?
よく見ると一つ余分にあった席は俺の隣だった。
彼女は何も言わず席に座った。
そんなわけでいつも通りに授業が始まるわけだが、授業が終了の鐘と同時に彼女の周りには人だかりができていた。
他のクラスからも彼女を一目見ようと多数の生徒が押し掛けている。これが転校生の運命なのだ。多分今日明日中はこれが続くだろう。
六時間目が終わり、帰路につく。
俺の横には明がいる。
「やっぱ可愛いよなぁ〜、あの娘」
なんだかぶつぶつ言っている。
「お前が羨ましいよ、席となりで」
「あのな、席が隣だから何だって言うんだよ、小学校じゃああるまいし」
小学校の頃は席がくっついていたから隣が良いとかそういうのはあったと思うが、席が離れていては別にどうでもいいはずだ。
だがこの男は羨ましがっている。
「だってさぁ、五列も後ろだと雰囲気が分からないんだぜ!」
ナルホド、明の席は後ろから二番目、それで羨ましがっているのか。
「でもさー、なんで高校入ったばかりなのに転校してくるんだろうな。何か前の学校で問題があったのかな?」
確かに、高校生になったばかり(現在は六月)で転校してくるのは不思議だ。
しかし問題がありそうにはとても見えない。
「家の都合とかじゃないのかな?」
「司はそう思うのか?常識的だねぇ」
いや、常識で考えると家や親の都合というのが一番あり得るパターンだ。
「まあ人のことだ!あまり詮索しないでおきますかっ!」
んじゃっ! という声とともに別の道へ走っていく我が友人。
あいつは何故かいつもハイテンションで、疲れを知らないようなタイプだ。
……さあ、俺も早く帰ろう。
バスに乗って、家へと向かう。座席に座って窓から景色を眺める。
日が落ちて空がオレンジ色に染まる、
カラスがかぁかぁ鳴いている、もう帰らなくちゃ、
今日の晩ご飯は何だろうとワクワクしながら走って家に帰る、
お母さんが肉じゃがを作っていた、
懐かしいお母さんの味――
はっ!?
俺としたことが寝てしまったようだ。
気がつけば次の停留所が下りる場所だ、寝過ごさなくてよかった。
……それにしてもえらく懐かしい夢を見た、俺が小さいときに死んでしまったお袋…。
ガチャリ
家の扉を開ける。
中では使用人が待ちかまえていた。
「司坊ちゃん、おかえりなさいませ」
使用人の一人が出迎えてくれた。
「ただいま」
「ちょうど夕ご飯のご用意ができておりますよ」
「ああ、ありがとう。お腹が空いていたんだ」
「そうですか、ささどうぞ」
俺は食堂へと向かう、食堂では珍しく父上が先に座って俺のことを待っていた。
「父上、ただいま帰りました」
「司か、今日は学校で何か良いことがあったか?」
「は?」
驚いた。
父上が俺の学校について聞いたことなどほとんどない。
それなのに普段は仕事で夕飯も一緒に食べないのに今日は俺を待っていて、しかも何か良いことがあったか? ときた。
おかしい――
「何故そのようなことを聞くのですか?」
父上は笑顔で
「いや、今日は珍しく仕事がうまくいったからな、こういう日はお前にも良いことがあるのだよ」
――なんだ、自分の仕事がうまくいったんでご機嫌なだけか。
ちなみに父上は弥生コーポレーションという金融会社の社長をしている。
「特に何もないですよ、いつもと同じです――」
いいかけてはっときた。
そうだ、今日は転校生が来たんだっけ。でもそれが良いことかなぁ……?
「そうか、だがいつもと同じというのもなかなか良いものだぞ」
「はぁ?」
父上の言いたいことが分からない。
「今の生活が幸せだと感じるならば何も変わらない方が良い、何かが変化すれば幸せな日常も変化してしまうこともあるからな」
なるほど、それが言いたかったのか。
――何も変わらない方が良い……か。
確かにそれはそうかも知れない――けどこんな普通の日常をただ繰り返しているだけだ、なんてつまらない、なにか少しでいいから変化が欲しい。
魔王が世界を滅ぼすとか地球に隕石が落ちるなんて変化は嫌だけど、それでもちょっとはスリルや冒険があっても良いと思うんだけど……。
夕食の後は自室に戻り、予習をする。
うちの学校は予習が不可欠だ。
なぜならば、たとえ初めてやる単元でも基本は分かっているものとして最初から応用問題を始めるからである。
ふと時計を見ると十二時を回っていることに気がつき、寝る支度をする。
ベッドに入り、電気を消す。
「今日もほとんどいつも通りだったな……、父上の言うとおり良いことなんだか、それとも悪いことなんだか……」
そう考えて、眠りに落ちる。
しかし、俺の普通の平和な日常はすでに変わりつつあるのであった……。
2
「司坊ちゃん、起きてください。学校に遅刻なさいますよ。」
「ん――」
使用人の声で目を覚ます、時計は……七時半!?
「いくら起こしても起きてくださらないのですから……!」
うわ、やばい、怒ってるよ!
「すみません! それから……今日は朝ご飯は結構です!」
「駄目です。きちんと食べていってください」
これじゃあ冗談抜きで遅刻だよ……トホホ。
朝食を迅速でとり終えると即刻家を飛び出す。
車で送って差し上げましょうか? と言われたが、学校まで車で行くと周りの視線が痛い。
……ということでやはりバスを使うことにした。
幸いバスが時間通り(いつも乗るバスよりも一本遅いが)来たので何とか学校には間に合った。
「よぉ!おはよう司! 元気かーい!?」
ああ明だ、朝からハイテンションなヤツ……。
「元気じゃないって、朝からずっと走りっぱなしで疲れたよ」
「走ると健康になるぞ! プラス思考で行こうぜ!」
「わかったから……ちょっとあっち行っていてくれよ。」
友人を無理やり追い返して机に寝そべる俺。
……だからといってうっかり寝てしまうと最悪の場合欠課になってしまうから注意が必要だ。
今日はポカポカいい天気。
梅雨の時期なのに、こうして毎日晴れていると水不足が心配だが気分はいいものだ。
――朝は忙しかったから、こんないい天気だなんて気がつかなかったな。
あれ?
俺の隣に女子なんていたっけ?
ああ、昨日転校してきた雪野か……、すっかり忘れていたな。
彼女は静かに一人本を読んでいる。
時々他の女子が話しかけてくるようだが会話は弾まないようだ。
……と、担任が教室に入って来た。
やれやれ、今日も一日が始まるか!
授業は本当にいつも通り終わった。
――結局何も変わったことがなかったな。
そそくさと家に帰る支度をする俺。
こうして帰路につく、道の光景もいつも通りである。
当たり前だけど――
いや、その当たり前の光景の中に不自然なものを見つけた。
体格のいい男二人が雪野を取り囲んでなにやら話している。
「お願いです…放してください…」
「そういわずにさぁ、ねーちゃん俺たちとつき合えよ!」
うわぁ、典型的なワル二人が嫌がる雪野を強引に誘っているよ……。
あいにくここは人通りの少ない道だ、周りには俺しかいない。
――仕方ない……助けてやるか。
「あの――」
「ああん!? てめぇ俺たちに何のようだ!」
「彼女嫌がっているみたいですから……放してあげていただけませんか――」
ドゴォォォン……!
男のそばにあった壁に穴があいた。
これは冗談抜きで危ない。
「早くあっちに行け!痛い目に遭うぞ!」
「でも――」
「この野郎!早くあっちにいきやがれ!」
男が俺の顔をめがけて殴りかかってくる。
「!!」
俺はパッと掌を広げる、すると次の瞬間――
ゴオォォォォォォォッ!!!
「うわっ!」
一人の男の体が宙に浮きあがり、そのまま後方に猛スピードで飛ばされていく……
ガアァァァァン…
電柱に激突、痛そう。
「なにぃぃっ! テメェっ……! 一体アイツに何をした!」
もう一人の男はかなりおびえている様子だ。だが後には引けないのか俺に殴りかかってきた。
再び掌を広げる。
またその男もさっきの男と同じように飛ばされていき、そのまま地面にたたきつけられた。
「くぅっ……アイツ……何者……だ……」
バタッと気絶する男。
そして雪野はおびえた表情でこっちを見ていた。
「大丈夫だった?」
「あ……あの……ありがとうございます……」
「どういたしまして、この道は人通りが少ないから気をつけた方が良いよ。俺が見つけていなかったら本当に連れて行かれたかもよ」
「ごめんなさい……」
「いや、別に謝らなくてもいいんだけど……」
何故か雪野は非常におびえている。
よほど怖い思いをしたのだろう。
「あ……あの……さっきの男の方を……飛ばしたのって……」
「ん? なに?」
「あ……いえ……何でもありません……、あの……本当にありがとうございました……」
ぺこりと頭を下げて走っていく彼女。
なんか非常に気になる、一体俺が何をした?
それはともかくとして、さっさとバスに乗って家に帰ることにした。
その様子を後ろから眺める不審な目に俺はまだこのとき気がついていなかった。
3
バスを下りると、もう空はほとんどオレンジ色から黒に染まりつつあった。
ここからは十分ほど家までとぼとぼと歩いて帰る。
家まで後少しというときに“そいつ”は現れた。
「きみ」
突然後ろから声をかけられた。
「はい?」
俺が後ろを振り返ると、そこにはオレンジ色の髪と赤い瞳を持つ女の人が立っていた。
俺よりも二、三歳上だろうか? とにかく大人っぽい印象だ。
「何か俺に用ですか?」
「当たり前でしょ。見知らぬ人が声をかけるのは用があるからに決まっているじゃない」
「……で、何の用ですか?」
「あなた、魔法使いでしょ?」
「はい?」
「とぼけたってムダよ、あなたは魔法使いなんでしょ? ダメじゃない規則を破っちゃ……、魔法使いは一般人に危害を加えてはならない……忘れたの?」
「いや……突然そんなことを言われても……」
「あっ、そっか。自己紹介をしないとね。私の名前は飛燕(ひえん)あなたの名前は?」
「司ですが」
「そう、司くんね。それじゃあさっきの質問に答えてくれる?」
「……一体何なんだ? いきなり魔法使いだろ? だなんて聞かれたって答えられるわけがない。俺は普通の人間だ。」
「普通の人間が人を吹っ飛ばせるの?」
「何それ――」
そうだ、思い出した、俺は不思議な能力を持っているのだ。
さっきはあまりにも久しぶりに使ったからわからなかったんだ。
「ひょっとして……自分が何をやっていたのかわからないの?」
「いや……思い出しました、俺は確かに小さい頃から不思議な能力を持っています。でもほとんど無意識のうちに使ってしまいますけどね」
「ええ!?」
飛燕さんはかなり驚いている。
「あの――」
「あなたは確かに魔法使いよ、でもあなたはそれに気がついていないのね」
「えーっと…、魔法使いって言うとよくファンタジー物語に出てくる?」
「そう、その魔法使い」
「でも俺は魔法なんか使えないぞ? まさかあの変な能力が魔法だなんて言うのか?」
飛燕さんはコクリと頷いて
「そう――あれが魔法よ。さっき司くんが男を二人吹っ飛ばしたのを見ていたけど、アレは完璧な魔法だってすぐ気付いたもん」
「へぇ、そうなんだ、俺は魔法使いなのかぁ……! ……って待ってくれよ、だから何なんだよ。俺が魔法使いで何であれ、あなたとは何も関係ないぞ。」
「関係あるよ、私も魔法使いだもの」
「へぇ〜っ、結構魔法使いっているものなんだなぁ」
「ふざけないで、あなた自分が魔法使いだと言われて何とも思わないの?」
「そりゃあ――」
思うよ、確かに。
でもいきなり魔法使いと言われたんだから頭の中がこんがらがってとても正気ではいられない。
できることならば逃げたいと思っているぐらいだ。
「あのさ、もう放してくれない? 疲れているから早く休みたいんだ」
「ダメ」
うわ即答!
「とにかく私の話だけでも聞いてくれなきゃ困る。自分が魔法使いだってこともなにも知らないのにぶらぶらされていたら大変なことになっちゃうよ」
「じゃあ……なるべく手短にお願いします」
「うん、まず司くんは魔法使いで魔法を使える」
「ああ、そうみたいだね」
「でも司くんはその力をコントロールできずに勝手に使ってしまう」
「ああ、小さい頃からそうだよ。そのせいでいろいろなヒドイ目に遭ってきたからな」
「それが問題なのよ、いい? 今はまだ魔力が低いから何かを吹き飛ばす程度ですむけど、だんだん魔力が高まってきたらそれだけではすまなくなってきちゃう
の」
「魔力?」
「魔法の力よ、精神力が高まるとそれだけ魔法の力も強くなるの」
「それで?」
「あなたは魔法をコントロールできるようになった方がいい。魔法は自分がコントロールできないと感情が高ぶったときに勝手に使ってしまうことがあるの。そ
れは大変危険なことなんだから」
「そうか…、でもどうやったらコントロールできるんだ?」
「まずは魔法を知ることね、私が魔法を扱う方法を教えてあげるから」
「それはありがたいね、是非ともお願いするよ。」
「うん、まかせてね。そうだなぁ……今日九時に教えてあげるからとりあえず裏山まで来て。」
「今すぐじゃ駄目なのか?」
「ダメよ、こんなところで魔法の修行なんてしたら一般人にバレちゃって社会から追放されちゃう危険性もあるからね」
なんか大袈裟だなぁ……
「わかった、じゃあ今晩行くから」
「言っておくけど来なかったら痛い目に遭うから覚えておいてね」
背筋がゾクッとした、本気で怖かった。
この人には逆らってはならない――そんな気がした。
4
飛燕さんと別れ家についた。
夕食をとり九時十分前ぐらいまで部屋で待機することにした。
あなたは魔法使いよ――と言われてもまだ今ひとつ実感がわかない。
確かに小さい頃から能力があったのは不思議だと思っていた、けど――だからといって自分は人と違った人間だと思ったことなど一度もない。それに人と違う
ところが一つぐらいあったって別におかしい事じゃない。
でもよく考えてみると、俺の能力は一際おかしい。
やはり俺は魔法使いなのか……?
裏山に着いた、時間はちょうど九時。
「司くん、ちゃんと来てくれたんだ、うれしいな」
飛燕さんが笑顔を作って待っていてくれた、そりゃぁ時間通りくるよ……、来なければどんな目に遭わされていたかわかったものじゃない。
「それで飛燕さん、魔法の修行とは?」
「うん、その前に一つ聞いておかなければならないことがあるの」
「なんですか?」
「司くんはこれまでに魔法を暴発させて建物を壊したり何か生き物を殺したりしちゃったことはないの?」
「え、特にないですよそんなこと――せいぜい家の扉を吹っ飛ばしたぐらいです」
「へえ〜、司くんってかなり穏和な人なのね」
「どういう意味です?」
「あのね、普通自分の力をコントロールできない魔法使いはさっきも言ったけど魔法を暴発させちゃうの。それが子どものうちならばまだいいんだけど、十、十
一歳を過ぎたあたりから本格的な魔法が使えるようになってきちゃうから、それまでに魔法をコントロールする訓練が必要なの。だけどそれをしていなくても平
気なぐらい司くんは感情が高ぶることのない性格なのね」
「いや……俺だって人間ですから時々キレますよ?」
「それでも、魔法は暴発しないでしょ?」
「ああ……、でもさっきクラスの女子が男たちに襲われていたときは別だけどね、あれはマジで頭に来たから本気でキレたね」
「本気であの程度? でも魔力は一人前よね……?」
飛燕さんはぶつぶつ一人で何か言っている。
「あの――」
「そうだ! ひょっとして司くんヨガとか柔道とかやってる?」
「へ? やっていませんが……」
「じゃあさ、他に何か……ええと精神統一とか瞑想とか!」
「あ」
そういえば瞑想は毎日やっている、あれは父上に勧められて始めたことだ。
「瞑想ならば毎日やっていますよ」
「そうなんだ……それで魔法がコントロールできたのね」
「瞑想にそんな効果があるの?」
「ええ、魔法は自分の『気』のエネルギーを使うから瞑想をして自分の気を落ち着かせることでコントロールすることができるの。多分一番効果的な修行かな」
「そうなんだ――」
それならば父上は俺が魔法を使えるって事も魔法のことも知っていたのか?
「ところでどうして瞑想を始めたの?」
「父上に勧められたんですよ」
「なんだ、やっぱりお父さんも司くんが魔法使いだって知っていたんじゃないの。なんで小さい頃教えてあげないのかしら……」
「いや……俺は養子ですから」
「養子?」
「ええ、小さい頃親に捨てられたんですよ」
「そう――、でも待って、普通魔法の力は代々受け継がれていくものなのよ。だとしたら司くんの本当のお父さんかお母さんも魔法使いって事よ。魔法使いは自
分の子が魔法を使えるとわかったならばコントロールする術を教えてあげないといけないはずなのに」
「そんなこと教える気なんてないと思いますよ、なにしろあんな親ですから」
「ひょっとして恨んでる?」
「ええ、一応俺を捨てましたから」
「……」
「……」
しばらく沈黙が流れる……。
「まあこれで司くんのことも大分わかったわ。毎日瞑想をしているなら特にトレーニングする必要もなさそうだしここでお別れかな?」
「わかりました、いろいろとありがとうございました」
「そんな堅くならなくてもいいよ、司くんいくつ?」
「15です」
「じゃあ普通に話してくれいいよ、私17だもん」
「そうかい?」
「ええ」
「じゃあ、まあサンキュー」
「うん、じゃあね……バイバイ」
すると、飛燕さんは手から火を出したかと思うと一瞬にして飛燕さんの体が炎に包まれ、そのままどこかへと消えてしまった。
「不思議な人だったな……」
まあ、ちょっとは自分のことがわかり少しほっとした。
そして俺はそのまま裏山をあとにし、家へと戻っていった……。
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