〜トキノアメ〜
ISM 作
<登場人物>
弥生司…この物語の主人公で弥生家の養子、魔法使いである。
雪野時雨…司のクラスに転校してきた少女。恐ろしいまでの天然ボケ。
宗堂明…司の友人、常にハイテンション。第二の出会いを見つけたらしい。
飛燕…魔法使いの女性。現在はキマイラの一員となり、仲間に迷惑ばかりかけているらしい。
望月沙穂…司たちのクラスメイト。メガネが似合う秀才でクールな学級委員。完璧主義。
中田…司たちのクラスメイト。「アホゥ」が口癖で、口が悪い。ツッコミ型。
田中…司たちのクラスメイト。のんびり系でやられ役。
和田…司たちのクラスメイト。どのクラスにも一人はいるぽっちゃり系の女子。現在ダイエット中。
<外伝一 司と時雨の夏休み〜修学旅行編〜後編>
<三日目>
1
気分のいい朝だ。
昨晩あったことは綺麗さっぱり頭の中から消えている。
……俺の横に敷いてある布団を見るまでは。
昨晩確かに外に吹っ飛ばしたはずの男がぐーすか寝ている。
そして……。
「田中くん――!?」
田中くんが何者かによって殺されていた……!
「死んでいません」
生きていた。
「……でも田中くん、布団血だらけだよ?」
「む?」
自分の布団をじーっと見つめる田中くん。
確かに布団は真っ赤に染まっている。
「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!!!」
「なんだよ、朝っぱらから大声あげやがって、アホゥ」
中田くんが目を覚ました。
「中田くん……田中くんの布団を……!」
「あ?」
じーっと布団を見る中田くん。
「血だーっ!? まさかお前ゾンビだったのかーっ!?」
「なんで血があるとゾンビなんだーっ!」
「ハハハ、イマゴロキヅイタカ、バカメ」
「まじかーっ! 悪霊退散! 南無阿弥陀仏!」
わけわからねぇ。
「これ、俺の血じゃないよ」
「えっ……じゃあ誰の……」
「うーん」
あ、全宇宙一級グレートバカが起きた。
「グーテンモルゲン!」
ドイツ語かよ。
「ちょっと洗面してくるわ」
……と立ち上がり、自分の荷物をがさがさとあさり始めた。
「……む?」
「どうした明?」
「俺の……ケチャップソースがない!」
「んなもん修学旅行に持ってくるな!」
「いや、違うんだ! あれは葵ちゃんが俺にくれた大事なケチャップソースなんだ!」
へぇ……。
「二人でファーストフード店に行ったとき、葵ちゃんが俺のために渡してくれた大事なケチャップソース……いつも肌身離さずに持っていたのに……!」
「知るかよ」
「なにをーっ!」
その時、明の動きが止まった。
「あーっ!!! 田中―っ!!!」
「ん?」
はっとした、田中くんの布団についている赤……それは明のケチャップソースでは?
「TANAKA……!」
うわ、本気で怒っているぞ。
「俺のおもひでを返せーっ!!!」
「俺は知らないちゅーにーっ!」
明の拳が一撃…二撃…惨劇。誤字にあらず。
「…えいっ、烈風」
なんだか中田くんの命が危ないので一発放ってみましたーっ。
2
「じゃあ点呼取るね」
朝から望月さんのハキハキした声が響く。
朝食を済ませた俺たちは、班行動のために宿舎の入り口に集合している。
今日の班行動は近くの村を巡り、そこで色々体験したり地域の人と触れ合うという内容である。一見ほのぼのしているが、修学旅行後にレポート提出が待ちか
ま
えているため適当なことは出来ない。且つ異様に望月さんが燃えているので今日も大変疲れそうだ。
「宗堂くん、田中くん、中田くん、弥生くん、雪野さん、和田さん」
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
「よし、じゃあ行こうか」
「良くないっ! なんか今一人多かったぞ?」
とりあえずつっこんでおく。
「あれ? 変ね……だって宗堂くん、田中くん……」
ぶつぶつと顔をしかめながら班員を見渡す望月さん。
いや、気付こうぜ……そこに誰か余計なのがいるよ……オレンジ色の長い髪に赤い瞳。
「やっほーおはよう!」
「飛燕さん……あなた何やっているんでしょうか」
「ん? 楽しそうだから一緒に行こうかなぁ、なんて思っちゃったりして」
あははーと笑う飛燕さん、それに対して望月さんは――
「ダメです! これは遊びじゃないんですから、部外者は関わらないでください」
――とすごく不機嫌そうに言い放った。
「えー、なんでー? ねぇ司くんからもこのメガネっ娘を説得してよー」
「メガネっ娘言わないで下さいっ! とにかくダメだったらダメです!」
望月さんはかーっと顔を赤らめて怒っている。
この二人は究極的に性格が正反対だから、恐らく気が合わないだろうな。
「もー、けち」
「……っ! ……何とでも言ってください! どうしても聞けないのなら最終手段を使いますよ」
今度は拳をわなわなと震わせているし……ピリピリとした緊張の空気に、俺たちやさらには他の班の人たちもその様子を見守っている。
「最終手段? なんか大袈裟だなぁ……」
いや、望月さんの最終手段は怖そうだ。ああいったタイプの女性は怒らせると非常に怖い。飛燕さん、そろそろやめておいた方がいいぞ……。
「まっいいじゃん! 私は邪魔しないからさっ!」
「あなたの存在が邪魔だって言っているんです――!」
ヤベェ、そろそろ本気でヤベェ。
他の班のメンバーはそそくさと班行動に出発しちゃうし……。
「そこまで言う? 性格ブス」
スイッチ起動。
望月さんの頭の中で何かが切れたような音がした。
最終手段の行使? 何をする気だ!?
「先生に言いつけてやるぅーっ!!!」
ちゅどーん!
そんな擬音が似合いそうな勢いで、俺たちは猛烈にズッコケたのであった。
3
「……出遅れたわ」
望月さんがため息をついた。
その理由は、真っ先に行こうと思っていたリンゴ果樹園に他の班の人たちが来ていたからであった。
遅れた原因は言うまでもない。
「いいじゃない、別に一番乗りじゃなくても。農家の人に話聞こうよ」
「やだっ! 一番乗りじゃないとタメになる話が聞けないでしょっ!」
妙なところにこだわりを持つね、この人は。
「次行きましょう、次!」
踵を返してリンゴ園を去ろうとする望月さん、それを制止するかのように時雨がボソッと呟いた。
「りんご……食べたいです」
「……季節的に無理なんじゃない?」
「でもじゅーすはあるよ?」
「おっ、いいじゃんリンゴジュース。のもーよ班長」
中田くんも賛成のようだ。
「……」
望月さんは考えた挙げ句、リンゴジュースをもらいに行くことにした。
夏の太陽の下、空気の美味しい自然の中、甘酸っぱいリンゴの果汁が喉を通っていきとても清々しい。
「班長、美味しいだろ?」
中田くんの言葉に、望月さんはぷいと顔を背けるが、ジュースだけはしっかり飲んでいるようだ。
「司さん……じゅーす美味しいですね」
「だな、本当に来て良かったよ、和田さんも飲んだら?」
「あー……私はダイエット中だから……」
「何言っているの、ジュースの一杯や二杯、影響しないって」
「そう……?」
和田さんはごくっと豪快な飲みっぷりを見せると満面の笑顔で美味しいと言った。
「当たり前ですよ! なんたって果汁100%ですから!」
「加重! 100%!」
ばたんきゅーと和田さんが倒れてしまった。
良く意味が分からないけど、きっとダイエットのために朝食を抜いたために起こった貧血だろう。
皆さんも無理なダイエットはやめましょう。
4
それから、俺たちは色々な場所に行き、牛の乳搾り、乗馬、村の最長寿ばーちゃん(106)と会ってきたりと、充実した班行動をとり、宿舎に帰り着いた。
「おかえりー」
飛燕さんがぶんぶんと手を振って迎えてくれた。しかし望月さんの表情が険しくなる。
「ただいま飛燕さん」
「どうだった? 楽しかった?」
「ああ、楽しかったよ」
「まだ居たんですか、いい加減帰ってください」
ムッとしながら厳しい声で言う望月さん。
「おっ、メガネの冷酷非道娘!」
いきなり臨戦態勢!?
「言いましたね……ちょっとばかり美人かも知れないけれど……中身が腐っていますね」
まずい、非常にまずい、また戦いが始まるのか!? 人間はどうして愚かだと思っていても戦争を始めてしまうのだ!?
ゴゴゴゴゴ……。
うう……こういった緊張の空気は嫌いだ……。
その時、凄まじい爆発音が外に響いた。
「何!?」
ロビーにいた生徒達は悲鳴を上げて騒ぎ出した。
まさか飛燕さん……常人相手に魔法を!?
「飛燕さんっ!」
「司くん! 私じゃないって! それよりもまずい……」
「なにが!」
飛燕さんは俺の腕をぐいっと引っ張ると俺を引き寄せ、耳元で囁いた。
「司くん、魔法使いの敵襲よ……絶対に中に入れさせちゃダメ!」
「敵襲!? 一体誰が……」
「いいから! 私は別の場所に行くから司くんは玄関に行って!」
そして次の瞬間飛燕さんは猛スピードで上を階へと上がっていった。
すると、玄関の方から何人ものの魔法使いと見られる人間達が中に押し寄せてきた!
「一体誰なんだ……こいつら……!」
その時、脳裏に昨日のスカージの言葉が浮かんだ。
――私には優秀な弟子と部下たちがいる……! いつかお前を殺しに来るぞ……!
「嘘おぉっ!?」
それは非常にまずいだろ! あのスカージの手下ならどんな非道な奴らだよっ!
考えるよりも先に、俺は突風を放っていた。
「う……うわあぁぁぁぁっ!?」
次々に後ろに飛ばされていく敵を追いかけ、玄関をふさぐように立った。
「おのれ……! 魔法使いがいたとは! 我々の邪魔をするとどうなるかわかっているのか!?」
男の一人が叫んでいる。
「何の目的でここに来た!? ここは俺たちの宿舎だ、殺し合いなんてさせないぞ!」
「殺し合いをする気などない! 中にいる飛燕という女さえ捕まえればそれでいいのだ!」
「飛燕さんを!?」
ダメだ、アイツらに飛燕さんを渡すわけにはいかない!
「司さん……! 大丈夫ですか!?」
時雨が走ってきて俺の横にやってきた。
「時雨! どうやらこいつらは飛燕さんを狙っているらしい! 絶対に中に入れさせない!」
「は……はいっ!」
「坊主、そこをどけ! どかないと敵に力を貸しているとみなすぞ!」
「どうぞ、お好きなように! でも飛燕さんは渡すものか!」
この言葉が、戦闘の引き金になったようだ。
十数人の魔法使いが様々な魔法を放ちながら突進してくる。
「時雨、久しぶりにあれやるか?」
「はいっ!」
俺は時雨と手をくっつけながら魔法を放った。
「空波!」
「吹雪!」
「な……複合魔法雪嵐!?」
凄まじい風と共に雪が降り、夏だというのに辺り一面銀世界となった。
「……がぼぅっ!」
雪に埋もれていた魔法使いたちが次々に這い出してくる。
「おのれ……ここまでやるとは……許されぬぞ!」
手には強大な魔力……まずい……あれは……!
「爆裂!」
投げられた魔力の球が俺たちの目の前に落ちると爆発を起こし、時雨と俺は爆風に吹き飛ばされて後ろに倒れた。
十数人の魔法使いたちが俺の周りを取り囲み、一斉に指を俺に向けた。
このままだと殺られる……!?
「待て!」
後ろから太い男の声! この声は……! そう! いつも聞かされている生徒達の嫌われ者……!
生活指導部長兼剣道部顧問兼国語教師岩畑先生!(通称イワっち)
何故嫌われ者なのにイワっちなんて可愛らしい通称がついているのかは俺にはわからない、意外と好かれているんじゃねーの?
「私の生徒達に手はださせんぞおぉぉぉぉっ!!!」
緑のオーラをまといながら猛進する岩畑先生、その手には何故か某映画風に赤く光る木刀が……! って悪役じゃん!
でもそれじゃ……まずい! 何がまずいって……!
「岩畑滅砕剣!」
がっ!!!!
間一髪だった、大体魔法使いに物理攻撃が通用するかっつーに。
魔法使いたちはひらりと身をかわしてくれたおかげで倒れている俺の横の床に赤く光る木刀の一撃がたたき込まれていたのでしたー。正確には命中寸前で俺が
転
がって避けたんだけど=何もしなかったら命中。
しかし、岩畑先生の登場は魔法使いたちに恐怖感を与えたようだ。
「どうする……?」
「くそっ……厄介なのが出てきたな」
「俺に任せろ!」
一人の魔法使いが岩畑先生に突進!そして掌を向けると魔法を放った!
「風の囁き!」
あれは相手を眠らせる魔法! あんな至近距離から放たれたらあまりもの気持ちよさに一発で安眠を約束されてしまう!
「効くかあっ!」
カキーンといい音を立てて、その魔法使いは飛ばされていった。ありゃあホームランだな。
「何故……! あの男にはあんな至近距離から放った睡眠魔法が効かないんだ!」
「魔法耐性でも持っているわけでもあるまいし! 常人だろ!? どう見ても!?」
「いや、緑のオーラ出している時点で危ういけどな……」
「ワケを教えてやろう!」
岩畑先生が叫んだ! 実は魔法使いだったとか魔眼持ちだったとか……!?
「私は魔法とか占いといったオカルトの類は信じないのだ!」
……それと魔法が効くかどうかは無関係なんですけど……先生。
「行くぞおおぉぉぉっ!」
先生猛進! 魔法使いの大群の中に緑のオーラをまといながら単身つっこんでいく!
だが、ふっと先生の姿が消えた。
「何……!?」
「はっはっはー引っ掛かったなーこれぞ落とし穴大作戦!」
「あ……」
単に岩畑先生は落とし穴に引っ掛かって落ちただけのようだ。しかも気を失っちゃったしー……。
「司さん! 大変ですよ!」
「おうっ、時雨……ここは死守するぞ!」
「はいっ」
「その必要はないな」
妙に聞き慣れているようで聞き慣れていない声がして、そちらをふり返るとそこには――捕まっている飛燕さんの姿と、陽炎の姿があった。
5
「陽炎? なんでここに?」
「ん……それはだな」
陽炎は飛燕さんをじっと見ると怒ったように言った。
「飛燕が仕事をさぼって抜け出すから捕まえに来たんだ!」
ちゅど−ん!!!
大袈裟かも知れないが吹っ飛んだ。
「じゃ……じゃあこの魔法使いたちって……」
「ああ、キマイラだ」
「はは……じゃあ何? 俺は仕事をさぼった飛燕さんをかばって命がけで戦っていたってこと?」
「そーゆーこと」
「ふ……それって俺……業務執行妨害……ですよね?」
さりげなく一番怖いことを聞いてみた。
「うむ、そういうことになってしまうがまあ今回はいきなり攻め込んだ俺たちにも責任があるし、大目に見よう」
――よかった……。
「では、俺たちは帰る。司、時雨、修学旅行を楽しめよ! さあ! みんな! 飛燕を連行だ!」
ズルズルと引きずられながら飛燕さんは陽炎たちと一緒に去っていった。
一陣の風が吹く。
後に残されたのは、穴にハマって気絶している岩畑先生と、呆然と立ちすくむ学校のメンバーであった。
<四日目>
1
虫の声一つしない静寂な真夜中に、ソレは確かに“在った”。
暗い闇に光る銀の刃、それで自分の指を軽く切る。
「痛……」
思わず声が漏れてしまう、わかっていても人間は痛みには声をあげてしまうものなのか。
一滴、二滴、鮮血が落ちる。
こんなものでは足りない、血が足りない、血が欲しい、チガホシイ。
彼は不敵に笑いを浮かべると、部屋に横たわる人間達を見た。
幸い寝ているのは十代の青年だ。血は若い人間のものに限る。
彼は刃を一人の青年に向けた。
――どこを切れば血が一番出るかな?
ごくりと喉を鳴らしてしまう。
やはり首が一番だろうか、それとも手首? この小型のナイフではそれほどにまで深い傷は負わせられないが、そこなら十分な血がとれる。
「うん……」
刃を首筋に当てた瞬間、寝ている青年が少し動いた。
「あ……あれ? 俺……」
目を覚ました……!
「ぐぼひゃ!」
拳を顔面に命中させる。
すると青年は鼻から血を流し、また眠りの世界へと“堕ちて”いった。
「おお……」
そして彼は十分な血を手に入れることが出来た。
2
夢の中だというのに寒気がするとはどういうことだろうか?
俺――弥生司はこの修学旅行において最も気をつけなければならないといけないことがあったような気がするのに、何故か思い出せない。
――厭な予感がする。
夢の中だというのに、どうしてこうも不安になる?
楽しい夢が見たい、とびきり明るい夢が見たいんだ。
学校に通う俺、後ろには時雨、今日は髪をあげてきたのかとても可愛い。
他愛もない話をしながら教室へと向かう俺たち、すると後ろから元気な声が響いた。
「よっ! 朝かららぶらぶだねぇ!」
思い出せない(思い出したくない)こいつの名前は何だっけ?
修学旅行三日目ではあまりにも出番が少ないから忘れてしまったが、とても存在感がある…。
「どうしたの? 司さん?」
にこっと笑顔を見せる時雨、それを見ると些細なことはどうでもよくなった。
「ううん、なんでもない、行こうか」
突然ぱあーっと、目の前が明るくなり、白い空間に俺は只一人いた。
「君は思い出さないといけない」
目の前にはいつからそこにいたのか、青年が立っていた。
「お前は……」
「わかっているだろう?僕は君自身だよ弥生司。僕の名前は弥生司さ」
「何故俺が二人……?」
「ここはお前の深層心理の世界。お前が忘れてしまわぬように出てきたんだ、僕は警告しにやってきたのさ」
「警告? 何をだ?」
「司、君は忘れたのかい? あの惨劇を……」
「惨劇……!?」
「そう、闇の魔王。奴によってもたらされた惨劇を……!」
ドクン。
心臓が跳ねた。
何故だ、胸騒ぎがしてならない。
「覚えている、いや、思い出した。しかし俺がもう倒したから奴はもう――」
「いや、いるさ。光あれば闇がある、奴は僕らのすぐ傍にいるのさ……」
「何だって……!?」
すると、世界が黒く染まり始めた……。
「何だ……!? 何が起こっているんだ……!?」
「いけない……! 奴が覚醒(めざ)めた……!」
「なんか無理矢理な当て字だなあ! おい!」
「司……! 思い出せ……! 奴の名を……!」
――シュウドウアキラ!!!
3
がばっと、布団から飛び起きた。
なんつー夢を見ているんだ……。
自分の情けなさに思わず頭を抱える。
「疲れているのかな……俺……」
時計を確認しようと顔を上げたとき、俺は見た、見てしまった。
――迫り来る黒い影とその中心にいる男の姿を……!
「……ってなにやってんだ明ーっ!」
すると、明の瞳が闇の中でかがや……かなかった、アイツは寝ている。うん、またいつものアレだ。
しかし――。
何で明の上にはなんか召喚されちゃいました系なファンタジック的デーモンさんが浮かんでいますかねぇ……?
やっぱり疲れているのかな……俺。
すると、俺はデーモンと目が合ってしまった。
デーモンは俺を見ると、標的にしたのか、手に持った鎌を振るってきた!
「わっ!?」
風が巻き起こった。
「ほほほ……本物!? 待て、こんな摩訶不思議なことがあるわけがないだろ!? 夢だろ!? これは……オイ! 待て……!」
「何だよアホゥ、うるさくて眠れねぇよ……何じゃこりゃぁーっ!」
中田くんにも見えるらしい、あーあ、これは現実なのか!?
俺は目を疑った、明は両膝をついたまま寝ている。その周りには、アカイエキタイで魔法陣が描かれていた。
「お前が召喚したのかーっ!?」
だが、そんな悠長なことも言っていられずデーモンの二撃が俺に迫る!
もう寝ている場合ではない、デーモンの攻撃を必死で避ける!
だがデーモンは素早かった、左手に黒い魔力の球を作り出すとそれを一直線に放った!
「黒弾!?」
黒弾は俺の腹に命中、後ろの壁にまで吹っ飛ばされてしまった。
「が……ぐ……?」
「弥生!」
マジで効いた……、なんで明はこんなものを召喚できるんだよぉぉぉ……。
しかしデーモンは現実として、ソコに在る。
「もう躊躇は出来ないな……!」
室内に風が巻き起こる……出来る限りはっきりとデーモンを貫くようなイメージを描く。
「食らえ! 疾風!」
空気の渦が巻き起こりデーモンの腹を貫いた!
「グググガアガァッ!?」
痛みにうめき声を上げるデーモン、チャンス到来!
近距離まで近づき、そして右の掌に溜めた魔力を一気に下から突き上げるように……。
「烈風!」
「ガガガガアァァァァァッ!!!?」
断末魔をあげ、デーモンは闇へと消え去っていった。
「やったぜ! 弥生! 今のは何だったんだ?」
「わからない、つーかわかりたくもない。ただ一つ言えることは――」
ただ一つ言えることは、宗堂明くんが原因と言うことです。
4
朝が来た、なんて平和な朝なんでしょう。
「とんでもないことになっちまったなぁ……」
部屋の中と自分の荷物を片づけながら中田くんは言う。
「だね……まさかこれほどにまで明と同じ部屋が大変だとは思わなかったよ」
横には顔を鼻血で汚しまくっている田中くんが寝ているし……大丈夫かよ?
「三日とも……だもんなぁ、一日目や二日目はまだいい方だったんだな」
「そうだね……デーモンを召喚するなんてね……」
「ん……ふああおはよう、二人とも、早いね」
血まみれの田中くんが起きた。
「おはよう、田中。顔洗ってこいよ」
「うぃ……」
ぼけーっとしながら歩く田中くん、洗面所から彼の悲鳴が聞こえてくるまでにそう時間はかからなかった。
「うー……んー……」
あ、(検閲済み削除)が起きた。
「……今俺のことなんだと思ったんだ?司」
「ん? この世で一番酷い悪口を並べただけだよ」
「そうかそうか……ふあーあ、おはよう!」
「……」
「……」
「……」
「なんだよ? シカト? イジメ?うわーお、ひでーな! 俺そこまで酷いこと……」
・
・
・
・
・
・
まあ色々あって、朝食にまで辿り着きましたとさ。
よい子は眠ったままうっかり魔法陣を描いてデーモンを召喚しないようにね♪
5
そんなこんなでもう四日経ち、俺たちはバスで帰路についていた。
さすがにみんな疲れたのか行きほどの元気はなく、眠っている人も多い。
横の席に目をやると、すやすやと眠る時雨の姿がある。
ホント、今回の旅行は大変疲れたが時雨の顔を見ると心が安らぐ……。
んで、田中くん、中田くん。
今までそんなに話したことはなかったけれど、一緒に四日間同じ部屋で過ごしたことにより仲良くなれた。
望月さん。
班長の仕事で頑張ってくれた、彼女がいたからこそこんなにも楽しい旅行になったのかも知れない。
和田さん。
ダイエットは程々に……。
最後に明……。
本当に本当にほんとーに! コイツには最初から最後まで苦労させられたよ……。
――でも。
――すごく楽しい旅行だった。
「ぺ・よんぢゅーん!!!!」
静寂をぶっ壊す明の叫び声。
クラスのほとんどの生徒が一気に目を覚まし、何人かは前の席に頭をぶつける。
「うぅ……」
隣にも頭をぶつけた時雨が……。
「なんですか! せっかく人がめろんぱんの夢を見ていたのに!」
またか……。
「刻のあ……」
「待てっ! 待てったら待てーっ!」
「ふたばていしめーいっ!!!!!」
「うるせーっ!」
「このアホゥッ……!」
「いい加減にしなさい!」
がんっ……!
トランクケースで殴打とは……学級委員おそろしや……。
高速道路を降りると、俺たちの見慣れた街に到着する。
たった四日間の旅行なのに、ずっと離れていたようで懐かしい感じがした。
俺たちはこうやって、一つ一つ経験を増やし、成長していく。
たとえ、明日からいつも通りの日常が始まるとしても――。
修学旅行編・完
<あとがき>
どうでしたか? 司達の修学旅行はお楽しみいただけましたでしょうか。
前編書き終えてから半年経過してしまい、ひょっとしたら書けないかも……とは思っていましたが溜めたギャグを解放しなんとか書き上げました。
やはり見どころは明の暴走っぷり、筆者本人をも笑わせるコイツ、非常に危険な人物ですな。
それから望月さんのキレっぷり。
メガネ美人の秀才は怒らせると怖い……これも定番なのですよね。
そうそう、新キャラ岩畑先生。
これってかなりすごいことになっていますが、実はモデルがいます。
あー、もうちょっと早く作っていればなーと後悔していたりも……。
それではISM次回作をお楽しみに!(あるのか!?)
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