Discrimination

「ハァ……ハァ……」
 僕は間一髪でなんとか逃げのびてこうして安全な場所に身を隠した。
 お腹がペコペコだ、喉も乾いていて水が飲みたい。
 それなのに、この辺りの人々は僕の黒い肌を見て殺そうとするんだ。

 その時、すぐ近くで一組の親子の声が聞こえた。
「いいこと? 坊や、人を見かけで判断したらだめよ」
「うん、お母さん」
 僕はこの親子の会話を聞き、いつになく嬉しい気持ちになった。
 雲が晴れ、陽が顔を見せ、僕はこの人ならば心を許すことができると感じた。
(助ケテ……)
 僕は残されたあらん限りの力を振り絞って足を動かし、親子の前に走り出た。

「あっ! 出たなっ!」
 ドンッ……。
 鈍い音がして、僕の頭上に鈍器が振り下ろされ、周囲に僕の血が飛び散った。
「まったく、綺麗にしているのにどうしてゴキブリが出るのかしらね」

 ――理不尽な……。

 完