dawn
パタン、と音がして、木の箱が閉じました。
白い髭の老人は穏やかに微笑んで輝く瞳を向けてきました。
「どうだったかな?」
老人は立ち上がり、木の箱をポケットに放り込むと、次にハンカチを拾いあげました。正方形の薄い布が光り輝きます。
「おや」
見ると、鮮やかな日の光が優しくさしこんできています。
「夜明けじゃよ」
老人はトランクケースを片手に持ちます。
あなたもゆっくりと立ち上がりました。ちょうど目に朝日が当たり、眩しくて思わず目を閉じます。
「さて、儂はそろそろ行くとするか。お前はもう大丈夫そうじゃな、何に焦っていたのかはわからないが、たまには休むことも大切じゃよ。そうすれば夜明けに
めぐり会える……」
老人は、一歩後ろに下がると微笑みを浮かべたまま手を振りました。
「さらばじゃ」
そしてそのまま、ぼん、と老人は煙の中に消えていきました。
あとには一陣の風が吹き抜けるだけです。
彼は時の賢者。
明けない夜の迷子を夜明けに導く者。
完
|