灰かぶりの女子高生

 時は現代、お金持ちのお屋敷に美妃という女の子がいました。
 彼女はいつも三人の姉にいじめられ、ボロボロの服を着せられていました。
 ある日、三人の姉は美妃に、
「今晩パーティに行ってくるから、美妃、アンタはお留守ばんを頼むわね」
 と言って、綺麗な服を着て出掛けてしまいました。
「――って、これじゃシンデレラじゃない!」
 美妃は、今の一般家庭にはなかなかないのでわかりにくいかも知れませんが暖炉の炎よりも激しく怒りました。
「もうっ悔しい! 私も招待されていたのにマジあり得ない!」
 すると、可哀想な美妃に見兼ねて、魔女が現れました。
「美妃、ねずみとカボチャを用意しなさい。パーティへ連れていってあげますから」
 魔女が言います。
「うわあ、本当にシンデレラみたいになっちゃった! ってことは、私は幸せになれるのね!」
 美妃は、不死鳥の如く灰の中から元気になって蘇りました。灰かぶり姫だけに。
「でも馬車はいらない、電車の方が早いし。洋服だけ出してよ」
 魔女は美妃の言葉に少し戸惑いながらも、美妃の服を綺麗なドレスに、靴をガラスの靴に変えました。そもそも、ねずみがいる家なんて今どき無いでしょう に。
 すると、美妃はそれを脱いでスポーツバッグにしまうと、洋服箪笥から一番まともな普段着を出して着替えました。
「な、何故、せっかく変えてあげたのに」
「だって途中で知り合いに会ったら恥ずかしいじゃん。だから向こうで着替えるよ」
 近頃の娘は難儀だ、と魔女が思ったかどうかはさだかでありませんが、とにかくお決まりの約束を忘れるわけにはいきません。
「十時までには帰って来るのですよ。さもなくば魔法が解けてしまいます」
「十時? なんか早まってない?」
「子供は夜遅くまでふらふらしていてはダメですからね」
 美妃は電車で渋々出かけていきました。

 さて、到着すると、早速美妃は着替えて会場に入っていきました。
 会場には、イケメンやお金持ちが一杯です。
 美妃が胸を躍らせながら歩いていると、突然イケメンの若い男の人から声をかけられました。
「こんばんは、君可愛いね」
 甘いマスクにすらりとした長い足、格好良く決まったスーツの袖からのぞかせる時計はロレックスです。
「僕、ドリームスターズの社長をやっているんだけど、よければ僕の会社の新しいCMに出演してくれないかな?」
 美妃は口から心臓が飛び出るかと思いました。ドリームスターズは最先端のIT企業。その社長さんから直接声をかけられてしかもCMに出演なんて……。
(CMデビューしてそこから売れっ子女優になってイケメン社長の玉の輿! 玉の輿なのよ!)
 美妃の頭の中では都合のいい未来が鳴門海峡のように渦巻いていました。
 そうして楽しく話しているうちに、時間は九時五十五分になっていました。
「大変! もう帰らないと!」
 美妃はH2Aロケットの如く会場から飛び出しました。
 するとイケメン社長さんは後から追い掛けてきます。
(そうそう、それでいいのよ)
 と内心思いながらも、美妃は階段を駆け下りました。がんがん! とガラスの靴の音が盛大に響きます。しかし、なかなか地上に着きませんでした。パーティ 会場は四十階の展望レストランで開かれていたのです。
 やっとのことで地上にたどり着いたとき、魔法は解けて服はもう既にTシャツとジーパンに変わっていました。
 玄関ホールに出ると、そこには大勢の人がいました。美妃はなんとか人と人の間をすり抜けて出口へ急ぎます。すると、美妃の目にあのイケメン社長がいるの が飛込んできました。
(しまった……文明の機械エレベーターを使われて先回りされた!)
 美妃は、顔を見られないように顔を伏せて出口へと早足で向かいます。しかしドアをくぐるとき、焦っていてガラスの靴を落としてしまいました。
「あっ」
 と、その時イケメン社長さんが声を上げるのを耳にしたので、振り向くわけにもいかない美妃は、そのまま片方の靴だけでビルから出ていきました。
(ふふ……全て順調ね、これで私は玉の輿なのよ!)
 と、電車の中で怪しく微笑む女子高生が目撃されたとかなんとか。

 三日後。通販で頼んでいた商品を待つかのように、美妃はそわそわしていました。
(遅い……ちゃんと拾ってくれたでしょうね)
 頭の中では不安が隊列を組んで行進中です。
 彼は彼女の住所は知っているはずです。パーティの時に話しましたから。
 すると、ピンポン、と機械的な呼び鈴が鳴りました。美妃は競争馬顔負けのスタートダッシュで玄関から飛び出します。そこに立っていたのは……!
「ちわっす、ワレモノのお届け物です」
 緑のキャップ、宅配便のお兄さんでした。

 終