労働基準法に訴える

  世の中には、恨まれる仕事もある。
  働けど働けど、罵詈雑言に暴力の毎日、されど褒められることなんてありはしない。僕の仕事はそういったものだ。
  されど、怠けるわけにはいかない。一度でも怠けたならば雇い主の「不良品が!」という罵声が飛んできて僕は首を切られるであろう。
  そんなわけで今日も仕事に入る。僕の仕事の時間は殆ど同じだが、雇い主の都合によって時折変わるので用心せねばるまい。
  夜十一時、雇い主が僕に今回の仕事は早朝六時であることを告げた。僕はちっちっと応える。
  僕はスタンバイする。うっかり寝過ごすと大変なので、草木が眠る丑三つ時であろうがテレビの放送時間が終わろうが、ただひたすらに時を待つ。
  小鳥がさえずり、日が上り始めた。出番はもうそろそろである。
  ちっちっ、と時が迫った。いよいよ本番である。
  ……三、二、一

 じりりりりりりりりり!

  頭上の鐘を殴打殴打殴打!
  直後、雇い主の強烈な左ストレートが「五月蝿いんだよ!」と言う罵声と共に飛び込んでくる。
  直撃、浮遊、落下、暗転。
  ぐわしゃ、と洒落にならない音がして、僕は壊れた。
  一時間の後、雇い主は慌てて飛び起き「なんで起こしてくれないんだよ!」と僕に対して悪態をつき、そこで壊れている僕を見つけ呟く。
「あらら、仕事の帰りに新しいのを買ってくるか」

  神さま、仏さま、今度生まれてこられるなら腕時計にしてください。

 完