僕は天使に恋をした

  白い雪が積もったなだらかな坂を、僕と彼女は二人、少し距離をあけて上る。
  てっぺんまで上りきった時、下に僕らの住む町が見えて、僕は呟いた。
「すごいな」
  彼女は言葉を返す。
「うん」
  笑う彼女の横顔に見とれて、僕はそれ以上話せなくなる。
  彼女もうつ向いて黙りこみ、沈黙が訪れた。
「「あの」」
  先に口を開いたのはどっちだったか、僕らは同時に言った。
「ごめん、先に言っていいよ」
  僕が言うと、彼女は首を振って僕が先に言うように促した。
「ん――あのさ」
  僕は一呼吸おいて、それから胸中にあった言葉を放った。
「僕は君が好きだ」
「――」
  また訪れる沈黙。彼女は顔を赤くして、少しうつ向いて、それから僕を見た。
「嬉しい――」
  ちらり、と空から白い宝石が落ちてくる。
「――でも……ごめんなさい」
  ちらりちらり、彼女は僕を置いて走り去った。

  その後、彼女はこの町からいなくなり、二度と会うことはなかった。
  あの時、彼女が何を言おうとしていたのかはわからない。
  肩に落ちるそれは、天使の羽のように白く、輝いていた。

 fin.