bind

 おい、お前。
 そう、そこでつまらなさそうに歩いているお前だよ。他に誰がいるんだよ。
 なんだかお前、生気ってのが存在しねえなあ、大丈夫かよ。
 ――あ?  お前には関係ないだろって?
 確かに関係ないといえばそうだが、俺はそういうわけにはいかねえんだよ。なにせ天使って呼ばれる存在だからな。人を助けるのが仕事だ。
 ――疑っている目付きだな、まあこんな口調じゃ無理もないか。
 それより、何があったんだ? 失恋か?  上司からのイジメにあったか?

 ……――言えよ。
 周り見んなって、俺以外に誰もいねえよ。
 ―――そうか、なるほど辛かったな。
 それで逃げ出したくなったってわけか?  まあ逃げるのも一つのテだ、悪くはない。
 でもよ、それはお前自身納得していることなのか?  納得していることなら俺は止めない。だが、俺はお前が納得していないようだから止めたんだ。
 ――図星だな。

 いいか、俺がアドバイスをくれてやる。聞けよ。
 生きていて無駄なことなんて一つもないんだ。
 無駄なことがあるとするならば、それはやってきたことを無駄なことであると思うことだ……と俺は思う。
 だから、少なくとも悔いを残しちゃだめだ。
 精一杯後悔しないでやりきること、それが大事だぜ。

 ――ん、僕はやり直せるかって?
 当たり前だろ、お前まだ生きているじゃねえか。
 少しの勇気さえあれば、あとはお前自身なんだって出来る。
 悪いが俺はお前の背中を押してやることしか出来ないがな。
 さて、顔付きが変わったな。もう大丈夫だ。
 俺の出番も今日はもう終わり、さっさと帰るとするかな。
 ……っと、また悩んでいるヤツがいやがる。
 悪いが俺は行かなきゃならねえ、世の中にはまだまだ悩んでいるヤツがたくさんいるんだ。
 じゃあな、元気でやれよ。

 完