midnight

 日も暮れ、空にはすっかり星が瞬く夜に、あなたは河原を走っていました。
 何故走っているのか。理由なんてわかりません。あなたは走らなくては気が収まらない様子です。
 次第に息もあがってきて、あなたは足を止めます。それでも心はあなたに休むことを許してくれません。
 全力で走ること、それがあなたがあなた自身に課した課題。足はがくがくと震えているのに、あなたは再び走り出します。
 しかし、体力は既に限界。
 それでも、走り続けないといけないような気になって、とうとう倒れてしまいました。
 倒れていても、心は全力で走ることを要求して、焦るあなたは一体どうしたらいいのでしょうか。

「どうしたんだい、こんな所で」
 そこに、一人の長い白髭をたくわえた年老いた男がやってきました。
 手には重そうな黒いトランクケース、頭にはおしゃれな帽子をかぶっています。
「――なるほど」
 老人は、あなたの胸に手をかざすと目をゆっくりと閉じて言いました。
 老人はトランクケースを下ろすと、ハンカチをポケットから取り出して、それを広げて上に座りました。
「これでもお食べ」
 そう言って、老人はチョコレートをあなたに渡すと、それからゆっくりとポケットの中をまさぐり始めました。
「これからお前に面白い物を見せてやろう」

 老人が取り出したのは、小さい木の箱でした。
「開けてみなさい、きっと面白い物がいくつか飛び出してくる筈じゃよ。ただし何が飛び出してくるのかは儂にもわからん。もしかしたら面白いと感じない物も 出てくるかもしれない。だが、きっとお主にとってためになる筈じゃよ」
 あなたは、箱を手に取りました。
「さあ、怖がらずに」
 ゆっくりと蓋を外します。
「よし、よしよし」
 蓋を全て開けた瞬間、まるで打ち上げ花火のように光が次々と飛び出してきました。

 それは、いくつもの物語だったのです。